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七十八編
私の話。
芸術とは魂の具現化であると私は思う。
己の持つ感情、理念、経験、思考、肉体、全てを結晶化させる行為が作品を作るということなのだと。
男の家に行った時、その絵は鉄製のケースに入れられ、硬そうなガラスが私と絵を隔てていた。
暗い闇の中にある火のついた一本の白い蝋燭。暖かみのある炎が壁際を仄かに照らし、溶け出した蝋がつうっと溢れているシンプルでいて綺麗な絵だった。
作者は不明と彼はいった。年代物で芸術性が高いということは私にも分かった。
この絵は夜暗くても廊下を照らしてくれるのだと彼は私に説明した。鉄製のケースに入れているのは壁を焦がさない為なのだと。
冗談だろうと笑う私が触った絵の飾られている壁は、心なしか……いや、確かに他の壁よりも暖かかった。