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七十七編
聞いた話。
神は人の姿であったり、異形の姿であったりする。
時に人を殺め、救い、笑い、そして謎を残す。
彼らが何をしたいのか私には分からない。
男が朽ちつつある神社の手入れするのには、何か特別な理由があったわけではない。
幼少の頃からそこで遊び、そこで新年を祝い、そこで長年連れ添った妻が死んだこと悲しんだというだけのことだった。
いつものことのように彼は長い石の階段を上り、小さな社を掃除する。周りの落ち葉払い、床を雑巾で磨き、水を撒く。
そして最後には決まって、明日も平穏に暮らせるようにと神に祈った。
その日もいつものように祈ろうと本殿に近づく。すると、どこからともなく子どもが現れ、彼の財布を抜き取った。
「あ、こら待てっ!」
追いかけ、子供の肩を掴むのと同時に後ろで物凄い音がした。
振り返ると本殿が砂埃を巻き上げながら崩れている。
そのまま呑気に祈っていたら大怪我をしていたことは確かだった。
視線を前に戻すと手は虚空を掴んでいた。地面には財布。
どこかで子供の笑い声が聞こえた気がした。