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七十六編
聞いた話。
人が消える話がある。人が現れる話もある。
でも彼らがどこにいって、どこから現れるのかは誰も知らない。
彼は電気工の仕事をしていた。ある日、会社の電話が鳴った。
「村の電気が一切動かない。霧が濃くて、自分たちで直そうにもどうにもできない」
そんな依頼だった。一般の電話回線も死んでいて、携帯電話しか動かないようだった。
電波状況も悪いらしく声には常に雑音が混じり、何かがウオンウオンと唸る音が引っ切り無しに聞こえる。
彼は仕事仲間と車を走らせてその町に向かった。
確かに霧が辺りを包んでいる。だがしかし、前が見えなくなるといったほどのものではなかった。
ただ。
そう、ただその村には人が一人もいなかった。
霧が晴れたあと、小規模ながらも捜索が始まったが誰ひとりとして見つけることができなかった。
依頼主の家に向かうにも、先程までそこにいましたと言わんばかりにテレビが夕方のニュースを映し出していた。
そもそも故障など、どこにもなかった。
「一番怖いのはさ、役人に口外禁止って言われたことだよな」
彼は不思議そうな顔でそういった。