七十三編
聞いた話。
幼い頃に見る悪夢は一体どういう意味を持っているのだろう。
聞くところによると、子供は必ず「何者かに連れていかれそうになる」という夢をみるらしい。
何故、子供は必ずそんな夢をみるのだろう。
彼は縁側に座っていた。横に薄手の着物を来た髪の長い女。彼は幼く、女は成人している。
日は高いが空気は冷たい。女が振り向いたのを感じて、彼もそちらを向いた。
女は腐りかけていて、目には何もなかった。皮膚は剥がれかけ、白い骨とねずみ色に変色した肉が異臭を放っている。空っぽのその目からドロドロとした何かをこぼしながら彼の首を締める。ぬるりとした腐りかけの皮膚と生ごみのような臭いが不快に感じた。
少年には彼女が泣いているように思えた。ごめんなさいといっているように見えた。
視界が虚ろに陰り、顔が破裂しそうになったと思った瞬間、目が覚めた。
「あれ……」
初めてそこで夢だと気がつき、彼はまたあの悪夢かと熱っぽい顔をさすった。まだ風邪は治っていない。
姉の名前を呼ぶ。しかし声は返ってこず、彼はそのまま壁を眺めた。
夢に出た女と同じ形のシミ。睨みつけるような泣き顔。どくろのような顔。布団を被り、ぼんやりと口を動かす。
「ごめんな――」
「――ごめんなさい」
何かが彼の声の上にその言葉を被せた。
はっと彼は起き上がり、壁を見る。シミは先ほどと変わらず彼を睨んだままだった。




