六十三編
私の話。
これは夢だ、と分かる時がたまにある。しかし、大半は夢だと気がつかない。
起きてから夢だったのだと気づくことはよくある。日常的に起こっている。
では。
夢だったのか現実だったのか分からない時は、どう判断すべきだろうか。起きてからも、それが起きていた時のことなのか、寝ていた時のことなのか分からない状況だったら。
電気を消してベットに入り、目を瞑った。
意識が闇に溶けて行くような感覚に身を委ねていると、どこかでキイっと蝶番の軋む音がして目が覚めた。ホラー映画にありそうな、ゆっくりとしていながらはっきりとした音。
私は締まらない体を起こす。あくびが出そうになるが途中でその気は失せた。目が慣れているのか、暗闇の中でもよく見えた。
パタンとどこかで扉の閉まる音。
私はそれがアパートの外、ベランダの前の駐車場から聞こえているのだと何とあなしに気がついた。
カーテンを開いて、下から覗いた。
私の家のベランダ、つまり一階のこの部屋のベランダは侵入防止のための高いフェンスがあり、上半分には覗き防止のための白い板がつけられていた。
その板の下から覗いた広い駐車場には、木製の扉がこちら側に向かって何の支えも無しに立っていた。つるりとした赤銅色のドアノブが見える。私はあんなものがあっただろうかと寝ぼけ眼でぼんやりと考えた。
またキイっという音が鳴り、扉が開いた。扉の向こう側はのっぺりとした暗闇で、そこから上品な革靴を履いた黒いズボン姿が出てくるのが見えた。恐らく男だろうというのは分かったが、上半身は覗き防止の板のせいで確認できなかった。
ぼんやりとそれを眺めていると、靴はくるりと私の方につま先を向けた。一歩こちらに近づく。
覗いているのがばれたと私は思って、直ぐにカーテンを締めて布団に潜り込んだ。目を瞑り、少し緊張した。
暫くしてから、起き上がりカーテンを開いて駐車場を見る。
そこには何もなかった。
あれは夢だったのだろうか?
それとも。