六十編
聞いた話。
私はそれを“囲い公園”と読んでいた。
囲い公園は上下左右が道路に囲まれていて、遊具も少なく、明らかに人が休めるような公園ではなかった。
変な印象を持ったが別段変わったことはなかった。
はずだった。
コンビニの帰り道、彼は入り組んだ住宅街を進む。
夜空は星々が散りばめられていて、空気はいやに寒い。
ちょっとした近道とばかりに彼は寂れた小さな公園を抜けることにした。公園は周りを緑のフェンスで覆われていて、離れ小島のようにぽつんと道路の真ん中にあった。
道路から土へと足を踏み入れた。
「えっ」
景色が変わていた。
黒い夜はオレンジの夕焼け色に染まり、空には星の代わりに黒いカラスが飛んでいる。ひとりでに小さなブランコがキイっと音を軋ませながら揺れた。
どうなっているのだろうと、彼が辺りを見回していると、一人の少女が小さな公園の隅で屈んでいるのが見えた。
おかっぱ頭でどこか昭和の匂いを感じさせる少女はじっと何かを言っている。か細い声で何かを言っている。
「……れだ」
「え?」
「めん……だ」
「あのっ」
彼は近づいて声を掛けようとした。耳を澄まして彼女が何を言っているのか聞こうとする。
今度ははっきりと聞こえた。
「うしろのしょーめんだーれだ」
その瞬間、彼は固まった。いつの間にか自分の後ろは陰り、大きな影が自分とその少女を包み込んでいる。
自分の後ろには何が、誰がいる。
彼は金縛りにあったかのように、その場で身動き出きず固まっていると、目の前の少女はフラフラと立ち上がり、ゆっくりと顔を彼の方向に向けようとし始めた。
気がつけば彼は走っていた。
本能的にその顔は、後ろは見てはいけないと思った。いつ頃からその夕焼け空から開放されたのかも分からず、暗闇の中を必死で走った。
走っている時、何かが自分のすぐ後ろを追ってきていた。後ろの正面誰だと追ってきていた。笑うような声で追ってきていた。
だけど彼は振り向けなかった。
壁を背にしながら彼は今でも背後が落ち着かないといった。