五十九編
聞いた話。
もしも自分が異星人だと知ったら、どう思うだろうか。もしも自分が人ではないと知ったら、どう思うだろうか。
あなたはもしも自分が人ではないと知ったらどう思う?
私は。
彼女は古い家柄の人間だった。神に仕えた家の血の者で、その名前も仰々しい名前だった。
夏休みのその日、彼女は祖母の家に遊びに来ていた。両親と祖父母は何やら難しい話をしていて、自分が入れる空気ではなかった。だから彼女は一人で散策という名の遊びをすることにした。
和室の水墨画や乾いた匂いの倉。屋根裏の埃くさい部屋。立派な庭と大きな木。
そして甘ったるい匂いのする祖母の化粧室。洋室のそこは何かの通販の雑誌やら新聞が隅に積まれていて、使われていない場所には埃が溜まっていた。
室内は薄暗く、小さな窓につけられたカーテンから漏れる浅い昼の光だけが室内を照らした。
彼女は祖母の古い眼鏡を見つけて、それを掛ける。瓶の底のように分厚く重いレンズ。ピントが合っていないからか視界はぼやけ、目眩がした。
両親のところに顔を出す。
父は眼鏡を掛けた彼女を見て、目が悪くなるぞと言った。祖父は嬉しそうにニコニコと笑う。
母と祖母の姿が見えず彼女は首を回す。二人は台所の方で料理をしていた。
二人に近づき、声を掛ける。
「ねえ、おかあ…………きゃあああああああああああっ!」
「つまり、おばあさんとお母さんは人の形をしていなかったと?」
「……はい。それからすぐに眼鏡は取り上げられました。眼鏡なしでみた二人は普通の顔だったんですけど、でもどこか慌てていたっていうか……。なんか、こう、嫌な感じでした」
その後、眼鏡の行方は分からなくなったと彼女はいった。
「もしもあの眼鏡を掛けて鏡を見たら……何が映ったんでしょうか?」
彼女は不安げにそういった。