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五十八編
私の話。
暗闇は深さが見えない。光が届かない。どこに繋がっているのか分からない。
全てを隠してしまうから闇なのだ。
普段から気になることがあった。それは祖母の家の近所の山に作られた洞窟。轟々と風なりを起し、底の見えない洞窟。
試しに石を投げたこともあった。野球ボールを思い切り投げたこともあった。
しかし、ボールはいつまでも立っても帰ってこず、石はどこかに当たる音どころか地面に落ちる音すらしなかった。
大人にその場所について聞くと、そこは神さまが住む神聖な場所だから悪さをするんじゃないぞと強く言われた。
それが今、崩されそうとしていた。高速道路を作るということ移動になったのだ。
太く硬そうなしめ縄は外され、どこかの名のある神主は呪文のような言葉を読み上げる。それが終わると神主は洞窟をライトで照らし、中に入った。
影から見ていた私はそれを見て驚いた。
洞窟はほんの五メートルほどの広さしかなかったのだ。岩肌の中心に小さな神棚が祀られているだけでそれ以外は何もない。
私には側に置かれた小さく古ぼけた仏像が笑ったように見えた。