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私の話。  作者:
55/125

五十五編

 聞いた話。


 あの土地はわりとそういった意味でも有名らしい。故に私はあそこだけには行きたくないと思うし、願う。

 あの土地の話をよく耳にするが、十中八九それは異常に彩られているように思う。

 人の狂気とは恐ろしい。


 有名なリゾート地。男はそこを車で通っていた。

 喉の渇きを覚えて男は自販機の前で止まり、車の外へ出た。周りは草木が生い茂った森のような場所で鈴虫の泣く声がどこからか聞こえた。

 森の端に置かれた自販機は小さな虫の死骸やら蜘蛛の巣がまとわりついていて、男を少しばかり不快な気持ちにさせたが、しょうがないと彼はコインを滑らせた。

 道の脇には横付された白い軽トラックや古ぼけたセダン。森の奥では松明の光。数人の老人老婆が何かを囲んでいた。

 男は少し嫌な感じを覚えながらも、早々にその場から立ち去ろうと思い、ペットボトルを手に取った。

「…………っ!」

 声にもならない声が聞こえた。助けを求める声に聞こえた。

 振り向く。

 瞬間、歓声が上がる。ひょうひょうとした歓声。子供のような歓声。

 男は息を呑んだ。

 何が起こったのかはよく分からなかった。だが何かおかしなことが起こったのはよくわかった。何か場違いな場所にいたのはよくわかった。

 ぼんやりとした目で振り向いた老人たちの顔はおしろいで真っ白に塗りたくられ、唇には真っ赤な(べに)が塗られていた。手には包丁や鎌が握られていて、その合間からは誰かが地面にぐったりと倒れているのが見えた。

 男が後ずさると老人たちは惚けた表情のまま近づいた。薄ぼんやりと開いた口。

「うわあああああああ!」

 男は半ば狂乱しながら車に乗り込み、その場を離れた。

 バックミラーには道路の真ん中でこちらをじっと見ている老人たちがいつまでも写っていた。


 今でも鈴虫の音を聞くとあの時のことを思い出すと男は私に語った。

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