五十一編
私の話。
正月ということで、私は父方の祖母の家へと来ていた。
この季節、神は忙しいと聞く。事実、町はどこか静かな空気が流れていた。
しかし、どんなに忙しくても忙しくなくても祝いたいという気持ちは一貫しているらしい。
正月の朝、ひんやりとした空気に目が覚めた。
カーテンを捲ると外はまだ青みがかった暗さを伴っていて、紙吹雪のような雪が空を舞っていた。
部屋から廊下に出る。しんとした空気に家で起きているのは私だけなのだと気がつく。
用を足し、もう一眠りしようと思った私は何か人の声のようなものを聞き、足を止めた。
ボソボソと小さく相談するような声。それも聞こえるか聞こえないかくらいの小さな囁き。
左右を見回しても廊下で喋っているような人間はいない。
今いる場所は二階。私は下で祖母か父が目を覚まして話をしているのだろうと思った。
階段から下を覗く。のっぺりとした蒼い暗闇。
起きているなら、明かりくらいはつけるものだ。しかしそれもない。
私は喉の渇きと空腹、そして小さな疑問を胸に一階へと階段を下った。ぼそぼそとした声は大きくなる。
左に曲がり、直ぐ目の前のガラス戸を引く。暗いリビングに足を踏み入れる。
私は耳を塞いだ。
「っ!!!!」
奇妙だと思うし、私にもよく分からない。だが確かにボソボソと喋る声は私の耳に届いていたのだ。
普通に喋るようなヴォリュームで耳に届いている。
……のにも関わらず私にはその言葉の意味がまったく理解できなかった。まるでテレビの砂嵐を延々聞かされているような、そんな感覚。
日本語であるというのは理解できるのに意味が汲み取れない。
私は酷く混乱して、壁に手をはわせ、明かりのスイッチを入れた。
そこには何もなかった。
気がつけば耳元で囁く声は既になく、ただテーブルがあり、四脚の椅子があった。左右には食器棚や冷蔵庫。
狐につままれたような気持ちでいると祖母がトイレの為か、果ては私の狼狽した雰囲気を察してか、奥から顔を出した。
恰幅のいい、しわだらけの祖母。
「なにをしてる」
「……今、なんか凄く大きな声でボソボソ声が聞こえて」
「ちゃんとした人の言葉だったか? なら狸だ」
「いや……ずっとボソボソいってるだけだった」
「んなら、さび神だもんで気にしなくていい。正月を祝ってるんだろうよ」
そういってかかっと笑うと祖母はトイレに消えた。
多分九十九神のことです。