五十編
私の話。
夢でしてはいけないことというものを聞いたことがある。いろいろ種類があって、単純に聞いているだけで面白いのだが、一つ気になるものがあった。
後ろを振り向いてはいけない、というものだ。見ることはよくでも、振り向くという行為はしてはいけないという。
なんでも、無意識でそれはセーブされていて普段はすることがないのだそうだ。でも、何かの手違いで見てしまうこともあるらしい。
あなたは夢の中で後ろを振り向いたことはありますか?
私の部屋は襖の部屋だ。襖を開けてすぐ目の前にベッドがある。横にちゃぶ台のような正方形のテーブル。
目が覚めた時、部屋は暗かった。少し開いた襖から廊下の明るい光りが私の部屋に漏れている。
部屋を見回す。テーブルの上には見たこともない黒いブラウン管のテレビが置いてあった。
とりあえず襖を閉めようと体を起こした。
ふいにブンと音がしてテレビの電源がついた。一瞬、砂嵐が写ったかと思うとすぐにブツンと音を立てて画面は黒く染まった。
「…………?」
少し気味の悪い物を感じながら私は襖に手をかける。その一瞬をついて、ひたりと私の首を何かが掴んだ。
手だ。
それも冷たい。
力は込められていない。振り向きたい衝動に駆られる。
そこで気がついた。これは夢なのだと。
では後ろを見るべきではない。しかし、徐々に指の力は強くなっていく。
振り向け振り向け振り向け振り向け振り向け!
そんな声が頭の中で聞こえたような気がした。
少しだけ、ほんの少しだけ。
そんな気持ちで私はゆっくりと首を曲げて後ろを目尻で捉えた。
結論から言えば私は何があったのか覚えていない。
だが何か恐ろしいものを見てしまったということだけは理解している。そして二度と見ようとは……そうしようとは思わない。
あなたは夢の中で後ろを振り向いたことはありますか?