四十九編
聞いた話。
自殺というものは衝撃的だ。その行為だけで既にマイナスな雰囲気を持っている。
もしも、人が死ぬ瞬間を見てしまったら私はどうかなってしまうだろうと思う。
中学に進級して何一つおかしなことはなかった。クラスメイトとも打ち解け、授業にも慣れた。
現在は数学の授業。黒板に書かれる記号や数字は異国の言葉のようで彼のやる気を削いだ。
彼は倦怠感を感じて、窓を眺めた。その学校は晴れの日であっても、どの教室も授業中はカーテンを締め切っていた。
ふわりと風にカーテンが膨らみ、外の景色が見えた。何名かのクラスメイトも同じように窓を眺める。青空にちぎれ雲が緩やかにかかっているのが見える。
瞬間、何かが落ちた。
ヒトガタの何か。
あるいは、人。
「え!」
「今の見た!?」
ざわめきと共にそんな声が上がる。それを見てしまった者は席を立ち半狂乱になって周りに同意を求めた。
他の生徒は窓に身を乗り出して地面を眺めた。死体がない、そんな声が聞こえる。
「今の、人だよね」
「女の子だったよ! あれ!」
「でも地面に何も落ちてないぞ」
ざわめきの中、彼はただ言葉を失い、呆然としていた。
年配の数学教師はざわめく生徒をたしなめるように生徒にいった。半ば諦めのついたような表情。
「先生はそんなもの見えなかった。きっと鳥かなんかをみたんだ。落ち着きなさい」
「でもあたしみたもん! みんなも見たよね!」
「……あとで話しを聞いてやるから今は授業を聞きなさい」
しかし、当然授業にならず、教師はどこかへ指示を仰ぎに出て行った。数人の教師が廊下に出て何か話しをしている。
そこで彼は他のクラスでも見た人間がいたのだと気がついた。
あの微笑む女子生徒の顔を。