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私の話。  作者:
45/125

四十五編

 聞いた話。


 火事場の馬鹿力という言葉がある。それとは違うのだろうが、何故か私はその言葉を思い出した。

 ある男から聞いた話し。


 男は急を要していた。男に先ほど届いた知らせは、母の危篤を意味したものだった。

 父が他界してから急に元気がなくなった母を彼はいつも心配していた。

 彼は普段から大切に磨いている愛車に乗り込み、高速道路に向かう。

「クソっ」

 こんな時に限って渋滞。

 進むには進むのだが、時速三十キロも出ていないだろう速度。カーナビには工事による渋滞が知らされていた。

 このままでは親の死に目会えない。彼は小さく舌打ちをした。

 不意にポーンとカーナビが音を立てる。

「この先、三百メートル先を左折です」

 平坦な女性の声で機械はそう呟く。

 手前を見ると料金所の看板が見えた。緑色の看板は彼の記憶にない地名を示していた。

 渋滞で否応なしに停止するよりかは、と思い彼は降りた。表示された料金を払い、カーナビの指示に従う。

 料金所を出て直ぐは古い田舎道だった。辺りは森に囲まれていて、藁葺(わらぶ)き屋根の古い家が立ち並ぶ静かな土地。季節が季節だからか田には稲が刈り取られた跡が残っているだけで、他には何もない。

 変なところに出てしまったと思いつつも、今更後には引けず彼はカーナビの示す方向を進んだ。

 鬱蒼とした森を抜けると急に騒がしい道路に出た。近くの看板を探し、自分がどこにいるのか調べる。

「嘘だろ……」

 普通に走っても最低一時間はかかるはずの場所。病院のある市内。

 目的の場所だった。


 漠然とした違和感を抱えながら彼は病院の駐車場に車を止めた。サイドブレーキを引いたところで、奇妙なことに気がついた。

 車に鍵は刺さっていなかった。ポケットを探るとその車のキーが出てきた。

 それを待っていたかのようにエンジンは静かに停止し、車内はけたたましいほどの静寂に包まれた。


 結局母は大したこともなく健康体だった。

 別段、何も悪いことはなかったのだが、奇妙な違和感だけが彼の中で燻り続けたという。

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