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私の話。  作者:
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四編

 私の話。

 

 私が中学生の頃、部活では怪談やら都市伝説なんかの俗に言う“怖い話”というものが流行っていた。だがそれもどこかで聞いたような話が多く、私は聞き飽きた話に正直うんざりしていた。

 総合病院の水子の霊の話も罪人を切った刀を洗ったという首洗いの池の話もいまいちピンと来ない。

 そんな中、一人が「○○の地区で昔殺人事件があったよな、そこを見に行こう」といった。私を含めて五人ほどそこにいたと思う。別案があった訳でもない私達はそれに賛同し、雰囲気を出すために日が暮れてから行こうという話しになった。

 私達は放課後、校門前に集合し、その場所に向かった。坂を自転車で上り、寂れた公園を過ぎた辺りにそれはあった。

 道路に面していて、明らかに空き家で、明らかに豪華な作り。レンガ造りを思わせる、黒と茶色の一軒家。

 私はその時、もっとおどろおどろしいあばら屋を想像していた為、綺麗な外観に拍子抜けしていた。

 特に何事もなく私達はそこを去った。

 誰が言い出したか、帰り道は来た時とは違う道で帰ろうということになった。別段、反対する理由もない私達はその意見に従った。

 夜道は暗かった。住宅街特有の静けさと暗さ。しかし、暗いといっても街灯の照らす白い光りは申し訳程度に道を教えてくれていた。

 道を曲がり、長い直線の道を私達は進んだ。不思議な事に曲がり角はなく、全ての家がその道に対して後ろを向けていたように記憶している。

 進んでいくと開けた場所が見えてきた。近くには灰色の錆びた鉄塔が立っている。

 誰かがぽつりと言った。

「線香の臭い……?」

「ホントだ」

 確かに線香の甘く柔らかい香りが鼻につく。しかし、もう一度嗅ごうとする頃にはそれもどこかに消えてしまっていた。


 開けたその場所は伸びきった雑草が辺りを包んでいて崖のようになっていた。先に進むべき道はなく、中途半端に高い崖。私達は景色を見ようと入り口に自転車を止め、そこから町を一望した。

 青よりの黒がのっぺりと町を飲み込んでいるのが見える。きらきらと輝く車の灯り、店のネオン。私達は誰が何かいうまでもなく、こんな場所があるのかと感嘆に似た溜息をついた。

 寂れた場所だが町を一望できるし、何より絶景だ。

 不意に一人が叫んだ。

「ここはやばい!」

 どういうことだろうと思い、私や他の者はその声の方向を窺った。その友人は小型のライトを持っていたらしく、辺りを照らしていたようだった。

 光の先に広がるのは、墓石。そこは墓場だった。

 墓場の中に私達はいたのだ。

 誰一人中に入るまで気がつかず私達はそこにいたのだ。

 誰かが不意にいう。

「さっきの線香の匂いって……」

「…………」

 ただの墓場のはずなのに何かぬるりとした嫌な汗が背を伝い、ここにいてはいけないという緊張が全員を包む。

「わっ!」

 一人が走り出したのを切欠に全員が我先にと自転車に向かい、またがり、力強くこいだ。

 帰りはどう帰ったのかいまいち覚えていない。ただ二度とあの場所には行きたいとは思わないし、二度と行けるとは思わない。

 

 あの長い長い道の先の向こうにそれはある。

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