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私の話。  作者:
37/125

三十七編

 私の話。


 以前バイトしていた場所は今思えば奇妙なことが多かった。

 そこはデパートの地下にある本屋だったのだが、作りが奇妙で一部どうしてと思うようなところも多かった。

 そんな場所の話。


 店内はなかなか広く、品揃えも豊富だった。半分はカードやゲームを販売するコーナーで、もう半分が本のコーナーになっているフランチャイズの本屋だった。

 私や他のバイトは朝九時に来て、十時の開店までに店内の準備をすませなければと、毎日忙しなく動いていた。シュリンクという新刊にカバーをかける作業、カードコーナーの椅子の下ろしや本を並べる作業。やることは豊富だ。

 私は内心、八時からにしてくれればこんなに急がなくてもいいのに、と思いながら仕事に従事していた。どんなに早く来ても社員は九時にならないと店内に入れてくれないのだ。決まりとのことで、どうにもできないといわれた。私は家が近いこともあってか必ず一番初めに店に顔を出していた。しかしどんなに早く来ても店の鍵が開かないかぎり意味はない。

 私の日課は副店長か社員が鍵を持って現れるまで、白い扉の前で待つことだった。


 どこか神経質そうな副店長が「今日も早いね」なとど私にいい扉を開ける。

 するといつものように平積みにされた本が床にぶちまけられていた。

 後から来た社員と三人で本を掴み、棚に戻す。

 以前、何故こういうことがあるのかと聞いたことがあったのだが答えをはぐらかされ、結局聞けずじまいだった。

 仲のいい社員や古株のバイトに聞いてもみな、よく分からないと答える。

 ただ分かっているのは、どんなことがあっても夜十二時以降は店内に居てはいけないということと一人になってはいけないという奇妙な決まり。休憩やちょっとしたゴミ捨てでも同じで、どんなことがあっても必ず隣に誰かを連れていなくてはならなかった。

 休憩室もまた奇妙で、天上近くの壁が一部くり貫かれていて、隣の奇妙な狭い空間の闇が少し眺めることができた。誰かと一緒に休憩しているとよくそこを何かが歩く音が聞こえた。


 ある日、私と年の近い社員がニヤつきながらいった。

「今日、十二時まで残ってみようと思う」

「本当ですか?」

「俺も何があるか気になるしね」

 私はその時、何かが起こるとは思わずただ結果が知りたくてその社員に激励を送った。

 そして三日後。

 社員がそこを辞めたことを知った。

 その件から少しして私も一身上の都合からそこを辞めた。


 一年後ほど経ってからだろうか、彼は深夜のコンビニで働いていた。

 奇妙な緊張を感じ、互いに歯がゆく、素っ気無い挨拶を交わした。

 商品を袋詰めしている時、彼は私にいった。

「あの店の……あれ、見た?」

「何をですか?」

「…………」

 彼は何も言わずありがとうございましたと私に頭を下げた。

 微笑みの向こう側がまったく笑っていなかったのが印象的だった。

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