三十六編
聞いた話。
心霊スポットというのはそういうものが出ないとしても、それなりの雰囲気がある。
無駄に死角が多かったり、薄暗かったり、寒気がしたり。
そんな場所だからこそ人は偶然を偶然と認識できないのかもしれない。
彼女は地元で有名な心霊スポットである「首狩り神社」という場所へ彼氏と向かっていた。
首狩り神社は昔、刑場だっただとか神に首を捧げた神社などと言われている。それに合わせてか、そういう現象の話も枚挙に暇が無い。
彼女はそんな話はこれっぽっちも信じていなかった。ただ彼氏が行こうというので着いてきただけ。
初め見る心霊スポットに期待をしていない、といえば嘘だ。少しは期待もあった。
車のエンジン音に身をゆだね、田舎道を走る。
田舎道、といっても随分道は舗装されていて不快な揺れや、鬱蒼とした森の中を走るようなことはない。
彼女はオレンジ色の灯りに照らされたトンネルに入る頃、今走っている場所の旧道も有名なスポットだったということを思い出しながらゆっくりと目を閉じた。
ふと寒気を覚えて目が覚める。車は止まっていて、歌謡曲が車内に響いている。運転席では彼氏が下を覗きながら何かを探しているようだった。
車のヘッドライトのせいか、はたまたオーディオの明かりのおかげか暗い車内が薄っすらと見渡せる。
シートベルトが首に食い込んで息苦しい。
左手には石を切って作ったような、凹凸の激しい不ぞろいの階段が暗闇に向かって伸びているのが見えた。
「――――っ」
彼女は声を発しようとした。しかし、掠れるばかりで音はでない。そればかりか、体が動かない。首から下の感覚が無い。
わけの分からない感覚に彼女は恐怖を感じた。なんとかしようと彼氏の方向をずっと睨む。
こっちを見て、と。
その熱意が通じたのか彼氏は顔を上げてこちらを見た。
「…………っ!」
それは首が無かった。肩から上がその黒いシルエットには無かった。
彼女は声にもならない声を上げて、内心泣きじゃくる。
首の無いそれは、ぬっと両手を差し出し彼女の首を掴んだ。
目を見開き、来ないでと心の中で絶叫する。
それはすうっと首を持ち上げた。
「え?」
内心そんな声が出る。
目を下に向けた。
体が無かった。
目の前の首なしは自分の体だった。
探していたのは自分の首で、動かなかったのは体が無かったからで。
何かに揺さぶられて彼女は飛び起きた。彼氏がもう着いたと彼女にいう。
彼女は若干うろたえながらも安堵の息をついた。
開始早々変な夢を見たが、所詮夢だと。
「あのさ、変な夢みたんだけど……」
「お前、早速そういうのやめろよ……」
彼氏の嫌そうな顔から目線をずらし窓の外を見た。
夢と同じ場所だった。
今度は悲鳴が出た。
それ以来、心霊スポットには行っていないという。




