三十四編
聞いた話。
神や物の怪はいつからいて、いつからそうなるのだろうか。
少なくとも最初からそこにいた、というわけではなさそうだ。
彼女は両親と共に、祖父母の家へと顔を出しに来た。孫が着たからか祖父母は顔を綻ばせて喜んだ。
夕飯になり談笑しながら箸を動かしていると、祖父が怪訝そうな顔でいった。
「○○、影歩きになっとるな」
どういうことかと思って彼女は振り向いた。影が二つにぶれ、重なりあっている。
「ああ、こっちで食べなさい」
そう祖母がいう。彼女はそれに従い、座る場所を変えた。
不思議なことに影は光が当たっているのに、消えずにそこに残っていた。自分の影は着いてくるが、その影はそこに留まり続けている。まるで最初からその部分が黒く滲んでいたかのようだった。
両親は珍しい虫がいた程度の表情で、また食事を再開している。
「おじいちゃん、影歩きってなに?」
祖父は何でもないことのように彼女に教えた。
影歩きとはその場に影が張り付く現象のことで、放っておくと畜生、つまり鬼に変わるのだという。
「もし出ても、こうやって光を当てとけば直ぐに消えるよ」
確かにいわれてみれば影は先ほどとは違い、少し薄まっているように見えた。
「よくよく考えれば凄い体験よね」
おかしそうに彼女は笑った。