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私の話。  作者:
28/125

二十八編

 聞いた話。


 電話とは不思議なものだ。仕組みを聞いても私はいまいち納得することができない。

 そして本当に私は友人と会話をしているのだろうか、と思うことがある。

 本当に同じ世界の、同じ人間と話をしているのだろうかと。

 電話の話。


 彼らは三人で近所にあるという心霊スポットに来ていた。酒も手伝い、恐怖感はなかった。線路の近くで辺りは何も無い。

 トンネルの下にあるという公衆電話。少し歩いた場所にそれはあった。夜のためかあたりは暗いが、遠目ながらにも公衆電話が黄ばんだ光に照らされているのが見える。

「こんなところで誰が好き好んで電話すんだろうな」

 そんなことをいって彼らは笑った。

 トンネルはじっとりと底冷えする冷たさがあった。グリーンの公衆電話は薄汚れているが回線は生きているようだった。

 ボタンと受話器にはベタついた黒っぽいヤニのようなものがついていて、彼らは苛立った。

「で、どうするよ。何もでないぞ」

「交番にでも掛けてみるか?」

「とりあえず、俺んちに掛けてみようぜ」

 そう一人が言った。それは先ほど三人がいたアパートで、今は誰もいない。

 受話器を持った男は十円を電話に滑らせ、携帯の電話帳を見ながら番号を入れる。

 直ぐにコール音が鳴った。続いて誰かが電話に出た。

 もしもーしという若い女性の声。

 受話器を持った男は焦った。

「おい、誰か出たぞ。しかも女!」

「おい、てめえ。いつの間に女こさえやがった!」

 二人は笑った。もう一人の男は知らねーよと強く言葉を発するが二人は相手にしない。

 受話器を持った男は相手を待たせるのも悪いと思い、少しからかい混じりの言葉を紡ぐ。

「あー、もしもしぃ。あたしヒロくんの彼女ぉ。アンタ誰よお」

「おい、ホントに俺は知らねえって! なんかおかしいぞ!」

「わかったわかったって。電話中だから静かにしろよ」

 女は聞こえていないのか『もしもーし』と先ほどと同じ言葉を続けた。

「だめだ、聞こえてねーなこれ」

「おい、だっておかしいだろ。家は鍵掛けてきたし、こんな時間に人が来るなんて変だろ」

 よく考えてみれば確かにおかしい。

 そんな言葉が二人を覆う。

「……おいおい、変な冗談はやめろよ。なあ?」

「冗談じゃねえって!」

 男は青ざめた顔を強ばらせながらそういった。それを聞いた男は冗談であって欲しいという類の笑みを零す。

 一方、受話器を持った男は凍り付いていた。

 それは女性の声の裏で自分達の声が聞こえたからだ。

 ワンテンポ遅れた自分達の声。

 どこか近くに相手はいる。

 悲鳴を上げて彼は受話器を手放した。らせん状のコードはぶらんと揺れ、受話器を壁にカチリと打ち付けた。

 相手も変だ。

 先ほどからずっと同じ言葉しかいっていない。

 怒っていた相手をなだめていた男はどうしたんだと、受話器を持つ。

 先ほどのことがあったからか、少し緊張しながら受話器を耳に近づけた。

 その瞬間、野太い声が通常では考えられないような音量で受話器から注がれた。

「もぉーしーもぉーしーぃ?」

「わあっ!」

 男は咄嗟にそれを手放し、尻餅をついた。

 本当にそれが受話器から聞こえたのかすら怪しかった。どこかに誰かがいて声を発したようにも思えた。

 三人は無言で転げ落ちるように逃げ帰った。


「今思えば、あの黒っぽいのって血だったんじゃないかなぁって」

 神妙そうな顔で彼はいった。

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