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私の話。  作者:
25/125

二十五編

 聞いた話。


 昔話を紐解くと稀に神が人に、人が神に惚れる話を目にすることがある。

 不思議なことに幸せな最後を迎えるものは少なく、それらは一様に悲しい結末を迎えるものが多い。

 この話もそんなもののひとつだ。


 日本のある地方のある場所では雪が降らないという。

 近隣の村々では屋根に積もるほど雪が降るのだが、その土地だけは何故か寒いばかりで雪は降らない。

 多くの人間がその原因を調べようとしたがある一つの昔話を除き、何もわからなかった。


 その土地は夏が短く、雪の季節が長い。

 そんな雪の振る季節になると、どこからともなく雪の神様が現れた。彼女は雪を降らすのではなく、雪を止めてくれる上に、村を春のよう暖めてくれるので大変慕われ、ありがたがられた。

 彼女を巡って国同士が戦争を起こした歴史もあったほどだ。その為か丁重に扱われ、彼女には多くの世話係がつき、屋敷まで与えられていた。


 ある日、彼女は恋に落ちた。

 相手は世話係の下男だった。村でもあまりいい家柄とはいえないが、その実直さと優しさ、そしてなにより彼女を一人の人間として扱うその心意気に心を奪われた。男も彼女の美しさと初めて触れる優しさに同じ感情を抱いた。

 男と二人きりになる為、彼女は他の奉公にきている者を下げさせ、彼に全ての世話をさせた。彼女の季節が終わると屋敷に守り番とし住まわせ、いい暮らしをさせてやった。そして冬が来れば彼女は屋敷に舞い戻り、雪の降らないその村で互いに愛を語らう。それを面白くないと思った者が彼を殺すのに、そう時間は掛からなかった。村の年長者達もいつか彼女が男と共にどこかへ行ってしまうのではないかと気が気でなかったのか、この殺しに加担し、谷底にその骸を捨てた。

 彼らにとって男は下男であり、彼女は便利な神であればよかったのだ。

 次の冬、彼女は男がどこかの女と駆け落ちしたと聞き、酷く落ち込んだ。雪は止まる所か彼女の涙の如く降り積もり、村を覆った。

 雪は彼女自身であり、谷底まで積もった雪によって彼女が彼の死を知るのは当然の帰結だった。

 怒り狂った彼女は泣き喚いた。その声は大きな地響きとなり、山の岩を切り崩し、雪崩を引き起こした。転がる岩や雪に村は押し潰され、何一つ残らなかった。

 何もなくなった村の中心で彼女は彼の骸を胸に抱き、天に昇っていったという。


 それ以降、その土地はやせ細り、寒いばかりの何もない場所となった。

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