二十四編
聞いた話。
古来から世界中で同様の事例が見られるというのは結構凄いことなのだと思う。
多くの人がそれを恐れ、中には文献に載るような事件も少なくないと聞く。それに遭遇した彼女から現場の写真をいくつか見せてもらったが、確かにおどろおどろしい雰囲気だ。
友人の母の話。
彼女は若い頃、それもバブルで日本全体が豊かだった頃に友人たちとある場所に訪れていた。そこは俗に言う神隠しで有名な土地で今現在でも禁足地になっている。
大学生だった彼女はサークルの仲間とその場所に遊びのつもりでやって来た。
時刻は深夜、丑三つ時。
小さな公園のような広さで、辺りを石でできた柵が神社を覆い、鬱蒼と生い茂る木々や竹藪がその場所を覆い隠すように首をもたげている。神社の前には灰色の鳥居があり、奥には小さな祠があった。祠の横に石を削って作ったと思わしき石碑。境内を白熱灯が頼りない光で無機質に照らしている。
彼女たちは藪を撮影したり、祠を覗いた。しかし何も起こらなかった。雰囲気はあるのだが、道路に面しているせいで恐ろしいというほどのものではない。
互いにそんな感想を話しながらみんな鳥居を潜って出て行った。彼女も出ようと歩く。
瞬間、何かに足を掴まれた。
わっと悲鳴を上げて、地面に転がる。後ろを振り返るが何もない。みんなの前で転んでしまったことが恥ずかしくて彼女は笑いながら視線を戻した。
誰もいなかった。自分以外は誰もいない。
性質の悪い冗談かとも思ったが、そんなことをできる余裕や時間はなかったはずだと直ぐに結論がでる。
では、何が起こったのか。
「その時はみんなが神隠しにあったと思ったのよ」
騒がしかったはずの車通りはいつの間にかシンとしていて何も音が聞こえない。歩道前に座りこちらを笑って見ていた友達の姿も見えない。
神隠しにあったのは彼女自身だった。
心細さよりも何よりも恐怖が彼女の大半を占める。
バクバクと震える鼓動を押さえながら、鳥居を出た。そして左右を確かめる。直ぐに途切れていたはずの森が横ばいに、遥か彼方まで続いていた。森の終わりが見えない。
震える声で友人の名前を呼ぶが、小さく木霊するだけで誰もその問いかけには答えてはくれなかった。涙目になりながらどうしようと考える。本能的に歩道から降りてはいけないことは分かった。
彼女は彼方に続く歩道を真っ直ぐ走った。暫くすると小さな灯り。
先ほどと同じ場所だった。
白い小さな鳥居がって、祠があって、石碑がある。
嘘だ嘘だと言い聞かし、また走る。また同じものがあった。
頭がおかしくなりそうだった。すいませんとごめんなさいと何度も口走り、目を瞑りながら真っ直ぐひたすら走った。不意にざあっという音が聞こえ、誰かに衝突し、その場で尻餅をついた。
サークルの先輩だった。
横には鳥居があり、その反対側は道路。車が低くエンジン音を唸らせながら通り過ぎた。
「帰ってきたんだ……」
彼女はそこにへたりこんだ。
サークルのみんなは彼女が消えた後、必死にあたりを探していた。
あと少しで警察に届けを出すところだったと先輩は語った。
今もその地では区画整理などがあったりするが、未だにそこはだけは昔の姿のままを保っているという。