十五編
私の話。
私の住んでいるところは第二次世界大戦中、空襲があった地域で当時は一面焼け野原だったと聞く。
駅前はその時に使われた地下道が残っていて、奇妙な作りになっている。断面図にすればV字といった、明らかに上を通った方が効率的なものが少なくない。
事実かどうかは知らないが、そういった不自然な作りの地下道というのは戦時中に死体安置所として使われていたらしい。
故に壊すこともできず、当時のままの作りを保っているのだという。
そこから少し離れた私の住んでいる町はその死体を埋めた土地だ。当時は山の中だった為にそういった場所に適していたようだ。
地下道にまつわる話。
その日は雨だった。
叩きつけるようなものではなく、シトシトとした霧のような雨だったように記憶している。
本屋めぐりの帰り、懐が心もとなくなった私はお金を下ろそうと思い、町外れのコンビニへと足を向けた。
街中故に車通りは激しく、横断歩道の少ないそこでは誰もが地下道を利用せざるを得なかった。
地下はじっとりと冷えていて、天井は低いながらも中は広い。白い蛍光灯が乳白色のタイルを照らしていて奇妙な圧迫感があった。
コンビニ近くの地下道を利用する人間は駅前とは違い、とても少ない。
私がそこを歩いていると二人の掃除婦がいた。一人はほっそりとしていてパーマに白い頭巾、ビニール製のエプロンをしていた。もう一人は同じような服装ながら恰幅のよい女性だった。
恰幅のよい女性は壁につけられた鉄製の黒い扉に顔と腕を突っ込み、青いバケツやらモップやら取り出していた。もう片方の手は何故か地下道側の壁を掴んでいる。
小人専用入り口、とでもいいたげなその小さなの扉の向こうは明るく、広いようだ。配管が見える。
昔から何があるのか、というのが私の密かな関心だったが、実際分かってみればなんてことはない。それはただの掃除道具を入れている場所だったのだ。
平静を装いながらも内心がっかりした私は、ふいに思った。
何故、細い人ではなく太めの彼女がその穴に体を突っ込んでいるのだろうと。
何故、細い方の女性は彼女の肩をじっと押さえているのだろうと。
それは直ぐに分かった。
太めの女性が甲高い声を上げた。
「あー、あー、引っ張られた! 引っ張られちゃった○○さん!」
そういって彼女は片手で壁を掴むも体をどんどん穴にめり込ませていく。
それに細い女性はうろたえることなく、その女性の肩を二度ぽんぽんと叩いた。
すると女性は穴からすっぽ抜けるように体を出すと、女性と何か話し、笑った。
その時は何とも思わなかったがコンビニにたどり着いた時に、その意味を理解した。
私はぞっとしながら帰りにその地下道を通った。