十三編
聞いた話。
人は恐れながらもそれに惹かれる。
いないと思いつつもそれを恐れる。そして求める。
兄とその親友は原付で夜道を走っていた。目的は心霊スポットや不思議な場所を探す為。
原付の収納スペースにはその為の懐中電灯や塩が入っていた。
開けた田んぼ道を風になびかれながら進んでいると、途中で奇妙なものを見つけた。
彼らは近くに原付を止め、それに近づく。辺りは地面がむき出しになっていて、鈴虫の泣く音が聞こえる。
そんな場所に地下道があるのは明らかにおかしかった。
駅の近くにあるような、地下と地下を繋ぐような階段。そこ一箇所にしかないようで、反対側に繋がる出口はない。
ますます怪しいと彼らは思い、そこに入った。
深夜の為か、地下の為か外よりも暗い。中はかび臭く、壁には頭の悪そうな落書き。地下の壁は古いながらもコンクリートで舗装されていた。
二人は二つのライトを使い、注意深く進んでいく。
途中で行き止まりになったように見えたが、すぐ横が曲がり角になっていた。当初は扉が付いていたのであろう場所をくぐり、彼らはそこに入る。
その時の様子を圧巻の一言だったと兄は言った。
地肌が向き出しになった洞窟のような空間に百体近くの、それも首のない地蔵が置いてあった。一様にそれは部屋の中心を見るかのように壁際にたたずんでいる。
そして部屋の中心に黒い棺。西洋的ではなく日本的な棺。
漆黒の棺には小さな窓。
辺りには何に使ったのか、中途半端に溶けた蝋燭が岩肌に直接置かれている。
ただ異質だった。
彼らは直ぐに踵を返すとその部屋を出た。
そこにいるだけでじっくりと咀嚼されているような嫌な感覚。
暗闇から誰かがじっと見つめているような気配に彼らは逃げるようにバイクにまたがった。
後日調べたところによると、そこは有名な心霊スポットだったらしい。
「だけどどの雑誌を調べても、棺桶のこと、一切書かれてないんだよな」
不思議そうな顔で兄はそう語った。