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私の話。  作者:
124/125

百二十四編

 私の話。


 シュレディンガーの猫という理論をご存知だろうか。死んでいる状態の猫と生きている状態の猫が云々……というあれだ。

 私はふとあれを思い出した。


 中学時代の友人と飲み会をした。昔話に花を咲かせ、語り合っている時のこと、ある人物のことになった。

 仮に佐藤と呼ぶ。

「そういえば佐藤は今、どうしてんのかな」

「佐藤?」

 私は聞いた。

 すると別の友人が懐かしいと弾んだ声で言いながら、ソレのことを教えてくれた。

 小学校の頃にいた人物で、人気者だった。卒業写真を撮る前に引越してしまったのだという。

 私は“佐藤”のことを全く覚えていなかった。気分的にはそんな人もいたのか、とすぐに忘れてしまいそうな話だった。

 だがしかし――。

「元気してるかなー、佐藤ちゃん」

「なに、お前そんな“ちゃん”づけで呼ぶほど仲がよかったわけ?」

「……え、呼び捨ての方が酷いでしょ?」

「いや、普通だろ」

「ええ? ありえなくない、それ?」

 互いに何かが噛みあっていないようだった。私と別の友人がそれを指摘する。

 二人の言いたい言葉をまとめると奇妙な内容になった。

 一人の友人がいうには佐藤は女の子で、可愛らしく大人しい子で友人が多かった。もう一人の友人がいうには佐藤は男で馬鹿みたいなことを平気でするような面白い奴だったという。

 最初は単純に二人の指す“佐藤”がそれぞれ別人なのかと思ったのだが、細い点では奇妙に一致した。しかし、外見や性別になると急にあやふやになる。

 二人は絶対に間違っていないと譲らなかった。

 別の友人に聞いてみると佐藤は背が小さかったといい、また別の友人にいうと背が大きかったと答えた。だがしかし、大まかなエピソードや細かい点はやはり一致する。


 私は面白いと思い、それからいろんな友人に“佐藤”のことを聞いてまわった。

 私のように覚えてないという人間もいれば、佐藤は渡米しただとか、中学までいたという人間もいた。


 本当に佐藤はいたのだろうか。いたとしたらそれはどんな人間だったのだろう。

 私は膨大で支離滅裂な情報の前に溜息をついた。

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