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私の話。  作者:
123/125

百二十三編

 聞いた話。


 何が生きていて、何が死んでいるのか。

 私には分からないし、誰にも分からないだろうと思う。


 山に入るものを襲う化物が出るようになった。最初は熊の見間違いではないかという話だったが襲われたものは、みな一様に「そんなものではない」と顔青ざめさせていった。

 それをバカにしていた村の有力者が山の麓で襲われたことで自体は深刻化した。


 長い手が幾重にもあり、足が四本から五本の真っ黒な化物。

 それを退治する為に数人の猟師が選抜され、男はその中の一人だった。今のところけが人らしいけが人は出ていないが、このままではそれもどうなるかは分からない。

 男たちは二人一組で山に入った。その山は何年も人が足を踏み入れていないような場所で、酷く荒れていて道らしい道もない。

 岩のように固い根が地面をのたうつ。その上を彼らは丁寧に進んだ。段差が多く、朝露を含んだ地面や岩肌はよく滑った。

 ナタで道を切り開きながら進むと小川が見えた。少し休もうと男は後ろを振り向き仲間に声をかけた。

「なあ、ここらで少し……」

 誰もいなかった。

 どこかにいったのだろうかと声をあげる。

「おーい」

 しかし、声は帰ってこない。

 彼が少し道を戻ると地面の上に仲間の帽子が落ちていた。男はぞっとしたものを感じ、どうしようかと考えあぐねた。化物とは聞いていたが、これはそれ以上のものじゃないだろうか。

 気分を落ち着けようと川で顔を洗う。水は肌を刺すように冷たい。目を開けて水を見た。自分の顔以上の何か黒いものが水に写り込んでいた。

 腕が幾重にもある、真っ黒な何か。首はない。ずんぐりとした体にただ腕があるようなそれ。

 男は銃を使おうか迷う。しかしこの近距離で銃は逆に命取りだと悟った。

「ふんっ!」

 男は振り向きざまにナタを振るう。がつりと確かな手応えを感じた。

 それはナタの刺さった傷口からススのような黒い霧を男の顔に吹き付ける。男は目を瞑り、ひるんだ。足が石に当たり川にこける。

 顔をぬぐい、すぐに男は立ち上がる。

 何もいなかった。地面に黒いススのようなものが足跡のように残っていた。

 その跡を追い、山を深く進んで行くと開けた場所に出た。苔生(こけむ)した地面の上に大きな大木が一本。昔は巻かれていたのだろう、しめ縄は朽ち果て、地面に落ちていた。仲間は近くで気絶していた。

 男は仲間を起し、大木に刺さったナタを引き抜くと村に戻った。


 その大木を再び祀るようになってから化物は現れなくなったという。

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