百二十二編
私の話。
祭りの語源は祀りだ。つまり神をたたえ、敬う儀式のこと。
忘れられた神は落ちぶれ、人を呪う。それ故に人はそうならぬよう、神を祭ってきた。
買い物の帰りだった。時刻は八時半ばにさしかった頃。
四月も終わりかけだというのに、夜はどこか薄ら寒い。空には大きな月が淡い黄色の光を見せながら優しく浮かんでいた。
私は自転車でひと気のない道路を横断し、公園と一体化したようなアパート群を抜けようと進んだ。同じような建物が横に、あるいは縦に立ち並び、森と一体化したような変わった建物。真横には天高くそびえ立つマンションが見える。昼は子どもたちが溢れ、主婦の憩いの場となっている場所だが夜は暗く、静かだった。
若干迷路のように曲がりくねった道を進むと、どこからともなく祭ばやしが聞こえてきた。
「お祭りの練習かな……?」
そんなことを考えつつ、ぼうっと進むと今度はそれに太鼓の音が混ざり始めた。次にどこからか人の声のようなものが混ざる。
どこかで祭りでもやっているのだろうか、と私は左右を見渡すが、辺りは石の壁と静かに佇むコンクリートの建物しか見えない。
近くとも遠くともないような場所から聞こえるのは分かった。
アパート群を抜けるとすぐに音は遠のいた。川沿いの狭い道を進み、広い道路に出るがあたりを見ても屋台はどこにもなく、車も通っていなかった。ただ暗い田舎道があるだけ。
煌々と白い光を照らすコンビニにたどり着いた時、私は不意に“こちら側に戻ってきた”という感覚を覚えた。そして同時にあれは人とは違う何か別のものが祀られることを望んでいる音だったのだと気づいた。
案外、どこかの神が早る気持ちを押えきれずにしてしまったことなのかもしれない。




