十二編
聞いた話。
兄が高校生で原付の免許を取ったばかりの頃の話。
彼は仲間とツーリングに出かけていた。当時、彼は私と同じH市に住んでいて、友達もまたH市の人間だった。
彼らはいつものルートで隣のH県付近まで来ていた。そこは山道で、ツーリングにくる者が多く、また事故も多い場所だった。
いつものように十数人で彼らは深夜の山道に入る。兄はその最後列で、後ろには親友を乗せていた。
走りなれた一本道。お馴染みのツーリングコース。
そのはずなのに迷った。見たこともない道をただひたすら進む。
彼らは森の中で一度止まると、互いに相談し合った。
「とりあえず真っ直ぐ進めば道に出られるだろ、一本道だし」
そう誰かがいい、彼らはその通りに道を進んだ。人数が揃っていることもあって、不安や恐怖というものはなく、全体をどうにかなるだろうという空気が包んでいた。
暫く進むと分かれ道が見えた。
だが関係ない。予定通りそのまま真っ直ぐ進めばいい。
そのはずなのに、前のバイクは止まった。
兄は慌ててブレーキをかける。
不思議そうな声で親友が彼に声をかけた。
「みんな何で止まったんだろう」
「さあ?」
さらに不思議なことに友人達はどんどん右に曲がっていく。予定とは違う行動に兄と親友は眉をひそめた。
視界を遮っていたものがなくなり、前が見えてくる。
そして納得した。
後ろの友人は彼の肩を揺すり、耳元でヒステリックに言葉を繰り返す。
「やばいやばいやばいやばい、あれはやばいって!」
「……………………」
正面の中心にそれはいた。
髪は長く、真っ白なワンピースを着た女がじっと地面を睨んでいる。
表情はその長い髪で窺うことができない。腕は力なく伸びている。
ぴくりとも動かない。
最後の一台になった彼らは他の人間と同じように右に進んだ。
直進はできなかった。
右に進み、道を走っているといつの間にか普通の道にいた。
彼らは休憩所に停車すると、互いに先ほど見たものを確認し合った。
「あの時、顔をみてやりゃよかった」
そういって兄は笑った。
後日、同じメンバーでその道を探したが何故か見つからなかったという。