百十九編
私の話。
私は流行りものが嫌いだ。
みな一様に我を忘れたかのようにそれに群がり、時間が立てばそれを忘れて別のものに走っていく。
その様子は異常で異質で恐ろしい。それが真にいいものだとしても彼らはすぐに捨ててしまう。
もしもそれらに声があったのなら、きっと呪詛の言葉を吐き捨てるだろう。
「最近、研究室で流行ってるんだけどさ」
そういって男は私に一つの映像を見せた。
ノートパソコンの画面に青空が浮かび上がり、スピーカーから轟々と風鳴りが響く。それを撮ったと思わしきカメラは空中で回転しているらしく、青空を映したかと思えば、眩い太陽を映し出し、時にミニチュアのような街並みを見せた。霞んだ地平線が見える辺り、遥か上空からカメラは落下しているようだった。
数分ほどでそれは緑の芝生が広がる大きな公園の木にガサリと激突し、ガラガラとノイズ音を混じらせながら地面に落ちた。画面がひび割れたような映像を流し、少しずつコンテラストを狂わせながら唐突に映像は終わった。
また始めに画面は戻り、再生される。
私はこれはどうやって撮ったのかと彼に聞いた。カメラの始まったシーンには飛行機だとか、そういった人がカメラに手を加えたような描写、それを落下させるシーンが一切なかったのだ。
少し意外そうな顔で彼は私の顔を見た。液晶に映し出される映像を指さしながらいう。
「あ、気づいた? これさ、どうやって撮ったのか謎なんだよ。うちの教授が拾ったのはわかってるんだけど、どうやって撮ったのか全くの謎で、遥か上空にどうやってこのカメラを“上げた”のかも謎。見た通り、空には何もない。みんなでいろいろ調べたけど加工とかじゃないんだぜ、これ」
「……ということは、急に空にカメラが現れて、落下した映像を映し続けたってこと?」
「そうなんだよ、可能性としては今のところそれしかない。でもさ、誰がどうやってどうすれば、そんなことができるんだ?」
白い歯を見せながら彼は無邪気に私に尋ねた。