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私の話。  作者:
118/125

百十八編

 聞いた話。


 自分の身に振りかかることが全てではない。

 幸運かどうかは分からないが、脇役として名を連ねることもあると聞く。


 山道を軽自動車でゆるゆると走っていた。両脇は背の高い森で、夜のせいか暗かった。

 ぽっかりと浮かび上がる月を眺めつつ彼女は道を進む。特に急いでいるわけでもなく、気楽な気持ちだった。

 カーステレオから流れる歌謡曲を口ずさみながら走っていると、急に人が道路に飛び出した。

「危ないっ!」

 ブレキーを強く踏む。

 ジーンズ姿の男は車のライトを眩しそうにして目を細めた。近寄り、身振り手振りで何かを叫ぶ。

「…………っ! …………っ!?」

「え、何?」

 彼女はカーステレオのボリュームを落とし、泥だらけの服装に目を這わせた。何かを焦っているような酷く不安げな表情。近くで事故でもあったのだろうかと彼女は不安になったが、同時に男自体にも恐怖を感じた。

 こんな夜道に、泥だらけの男。非現実的な匂い。

「お化けじゃないよね……」

 口からそんな声が漏れた。

 男は痺れを切らしたのか、一瞬遠い目で固まり、次に大きな声を上げ、森の中へと逃げていった。

 頭がヤバイ人だったのだろうか。

 不安な気持ちを覚えつつ、男の消えた方向を窺っていると、一瞬月が消えたのを感じた。視線をそちらに向ける。

 何か大きなモノが目の前を横切っていた。

 全身が草木に覆われた不思議な生き物だった。森の緑に手足が生えたような、そんな印象。

 それは彼女に一瞥もくれることなく、音も立てずにスルスルと男の消えた森へと歩いていく。

 すぐにその姿は周りの木々と紛れて見えなくなった。


「あたし、あそこであの人を助けるべきだったのかな」

 どこか持て余し気味に彼女はいった。

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