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百十二編
私の話。
人は知りたがる。知らないものを知ろうとする。分からないものを理解しようとする。
しかし本当に理解できる日は永遠に訪れない。
私は超常の力を使うという老婆を紹介してもらった時、素直にその力を見せてほしいといった。
彼女は興味本位でそういうことを言われるのが嫌いだった。だからなのか、少し頬を歪めて笑った。タバコの煙をうまそうに吐き出し、人差し指で私の額をコツンと突付く。
「またおいで」
くるりと身を翻し、ファンキーな彼女は手をヒラヒラと揺らし去っていく。私はそれを追おうとした。追おうとして、私は、その場に崩れた。
「あれっ」
寸前のところで友人が私を抱きかかえる。
手を上げようとする。動かない。
足を動かそうとする。動かない。
体全体が動かなかった。長時間正座で座らされたような痺れが全身に伝播していて、いうことを聞かない。
私はただひたすら「凄い」と「面白い」を興奮した表情で連呼した。友人は私を狂った人間を見るような顔でみた。
その場には、いつまでも彼女の紫煙の香りが漂っていた。