百十編
聞いた話。
妖怪は元々は神様だったというのは結構知れていることだと思う。土着の神が忘れ去られてそうなったのだと。
元から人を喰らい、嘲る神もいるのだと思うと、崇め奉られていた神が人に害を成すようになっても、おかしくはないのかもしれない。
そこは妖怪山として一部では有名だった。
なんでも昔に近隣を荒らしていた妖怪勢と土地の代表者(領主とも聞く)が話し合い、山を三つほど譲るかわりに人に手を出すなという契りが交わされたのだという。それ故に年寄りはその山を契り山だとか妖怪山、神代の土地などと呼ぶそうだ。そういったことが関係しているのか熊も寄り付かない為、稀に登山客や自然学者などか訪れた。
ある登山客達は遠回しに老人たちが山に行くのはやめておけというのも聞かず、山に登った。
広葉樹が立ち並び、鬱蒼としながらも美しい山。山菜などを取りながら彼らは山の中腹の開けた場所で大きな声で叫んだ。やまびこを聞こうとしたのだ。
「やっほおー!!」
「おーい!!」
ゆるい風がふき、近くの竹やぶがザワザワと揺れる。
「気持ちのいいところだね」
「山菜とかきのこも一杯あるよ」
一人がもう一度やまびこを響かせようと肺に空気を入れた。
「やっ――――」
「うるさいっ!!!!」
そんなシワがれた男の声が響いた。頭に直接語りかけるような声で響いた。
みな一様に動きを止めて互いの顔を見る。しかし、訳が分からない。周りを見てもひらけた場所で何もない。何も見えない。
ふいに山が笑った。林が、竹が、草木が、土がゲラゲラと声を出して笑った。子供や女や男や老人の声で彼らをゲラゲラと笑った。
我先にと彼らは逃げ帰った。