十一編
聞いた話。
歳の離れた長男は怖い話やホラー映画が大好きだった。
彼はよく心霊スポットに遊びにいったり、見れば呪われるというビデオを好んで見ていた。
私と彼の知る限り、二回を除き、兄は幽霊を見たことがない。
本人はそれを幽霊だとは断言できないといっていたが、私からしたらそんなことは通常起りえないし、それにしか思えない。
そんな彼の話をしようと思う。
彼はいつものように駅前のビデオ屋で映画を借り、ゲーム屋に向かうと新作をチェックした。
しかし、今日はめぼしいものがない。
一人静かに落胆した彼は自宅に向かって黒のワンボックスを発進させた。
当時兄は父方の祖母、つまりKのFに住んでいた。故に何をするにも車が不可欠だった。
車に取り付けられた時計はデジタル表示で、午前三時を示していた。つまり深夜。
自宅には十分ほどでついた。当然夜は静まり返っている。
彼は家から少し離れた場所にある駐車場に車を止め、エンジンを切る。
静けさが少し煩い。
荷物を取り出し、ジャリの上を歩く。道は等間隔に置かれた蛍光灯が首をもたげながら照らしている。
その明かりの下に子供がいた。
黄色い帽子に黄色い鞄、どこかの園児服。かくれんぼをしているかのように両手を電柱の方に当てて、じっとしている。
彼は辺りを窺った。親か何かがいるのだろうか、と。
しかし、いない。
それどころか明かりすら乏しく、人の臭いすらしないのだ。
そもそも、こんな時間に普通子供がいるだろうか。
こんな時間に園児服を来た子供がいるだろうか。
そんな疑問が沸いて出る。微動だにしない小さな子供に息が詰まる。
ぞくぞくと体を奇妙な緊張が刺す。
いい大人なら、ちゃんとできた大人なら子供が一人夜道にいるならば声をかけるべきだ。
だが、明らかにそれは異常だった。
光に照らされた肌は青白く、黒い髪は闇に溶けてしまいそうな雰囲気。
彼は本能的にそれを無視した。
計算や考えではない。
それはそうすることが正しいのだと。
「あの時、もしも声をかけてたらどうなっただろうって今でも思う」
それ以来、その電柱で彼は子供を見ていないという。