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私の話。  作者:
105/125

百五編

 聞いた話。


 目の前の扉、押し入れの戸でもいい。それらはいつも同じ場所へと私達を繋ぐ。

 ある日それが別の場所に繋がる可能性もなくはない。


 残業が終わった。

 暗くなったオフィスのチェックをして、ぬるくなったお茶を口にする。ブラインド越しに見える町はまだ明るく、オフィス内の電気を消しても十分に辺りが見渡せるほどだった。

 荷物をまとめ、誰もいないオフィスを抜けて彼はエレベーターを待つ。ゆっくりと開かれた扉の光りは廊下の暗さと相まって眩しい。

「ふう……」

 欠伸をかみ殺しながらボタンを押す。

 そこで間違って二階と三階を同時に押してしまった。慌てて一階を押す。

「ああ、めんどくさ。……でもまあ、いいか」

 そこについても無視すればいいだけ。


 体から重力が消え、表示板の数字は変わっていく。三階に到着するが無視して扉を閉じた。

 二階辺りに差し掛かったところでエレベーターが開く。表示板をみると三階と二階、両方の数字に光が点いていた。

 どういうことだろうと彼は呆然とそこに立った。『閉』のボタンを押してもエレベーターは動かず、時間が時間だからか内線も機能していない。

 どこからかルルルルという聞きなれたコール音。

 エレベーターから顔を出して左右を見る。本来あるはずの観葉植物はなく、白い壁はどこか薄汚れていた。停滞しきった空気と埃のにおい。

「二階ってこんなところだったか?」

 どうしようもない状況に彼はしかたなくエレベーターを下りた。非常階段の扉は固く閉じられていてピクリともしなかった。

 何かよくないものを感じながらも、とりあえず音の方向に向かう。

 どの部屋も扉が取り外されていて、何もない部屋が薄暗いながらも見えた。机や蛍光灯といった当たり前のものはなく、何かあったとしても年代物の機械やら古いコンピューターが隅に積まれているだけ。

 ただ、どの部屋にもブラインドはしっかりと掛かっていた。


 エレベーターから少し離れた部屋、広い空間にぽつんと置かれた白い内線電話はまだ音を鳴らしていた。彼が取ろうとしたところで留守電に変わる。

「あっ……なんだよくそ」

 お決まりのセリフの後にピーっという音が鳴る。

『し……へ……参り、ます』

『げて……げてください……に……て』

 そんな女性の言葉がノイズを混じらせ、重なりながら届く。ひとつは容易に分かった。エレベーターの声だ。

「下へまいります……と何だ? げてさい?」

 不意に別の部屋からドゴンという音。彼は顔を上げてそちらを窺い耳を澄ました。

 聞こえるのはズルズルと何かが地を這うような音。その音の主は一つや二つではないことは直ぐに分かった。

 本能が危険信号をがなり立てる。そこで彼は答えに行き着いた。

 げてさい。

 げてください。

 にげてください。

 すぐにその部屋を出た。エレベーターは扉が閉まる寸前。

 即座にボタンを押して扉を開き、閉じた。

 扉の閉まる寸前、何かが地を這っているような手が見えた。

 次についた場所は二階だった。


「二階は二階で、三階は実は四階だったって話しなんだけど……そうだとしてさあ、本当の三階には何があったんだろう? 何であんな隠すみたいなことしてるんだ?」

 複雑そうな顔で彼はそう私にいった。

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