百四編
私の話。
自然に近い位置にいる動物ほどその表情は穏やかであることが多い気がする。
どこかや悟りきったような、そんな顔つき。
彼らは一体どんな世界が見えているのだろう。
神々の時代から続く血筋を知っている。祖母の田舎に住む、大きな白い犬。
もののけ姫に出てくるような気高く、力強い犬だった。成人男性が四つん這いで歩いているような大きさで、小さい子供くらいなら乗ることも可能だっただろうと思う。
犬というよりは狼のような出で立ちだった。何でも古代から続く犬の神の血を受け継いでいるらしく、初代は牛を呑み込み、家を飛び越えるほどの大きさだったという。
一度、私も散歩させてもらったことがあるが、最初はあまりの大きさに度肝を抜かれた。とにかく気品のある顔で、年寄りだというのに力強かった。
すれ違う犬は皆、彼を見るとその場で固まるか、主人の後ろに隠れてしまう。中にはその場で“オスワリ”をして彼に道を譲った犬もいた。
彼もそれを偉そうにするわけでもなく、ただ当然のようにして通る。
私はそれを見て、神の血筋というのもあながち嘘ではないのかもしれないと思った。
そんな彼も死んだ。寿命だった。
何年生きたのかは知らないが、相当長く生きたのだと聞く。
彼が死んだ時、町中の犬が空に向かって遠吠えを上げ、季節外れの花が咲いたのだという。