百二編
私の話。
子供の頃、望めば何でもできるような気がした。
どんなところにでも行くことができて、どんなことでもできる万能感があった。世界は自分中心に回っているようなそれを感じていた。
しかし、大人になるにつれ、それは失われて行く。色あせ、渇れはて、朽ちてゆく。
何が切っ掛けでそうなるのだろう。
知り合いの妹が死んだ。死因はよく覚えていないが病気だったと思う。
私は普段から自分が冷たい人間であり、人が死んでもこれっぽっちも悲しくないといっているような反社会的な人間だったからか、私が葬式に行った時、彼女は喜んだ。
「きっとあの子も喜んでいると思う」
そういって知人は無理に笑った。
朝が早かったからか、人がいない。慌ただしく葬式の準備をする家族だけ。家の雰囲気はどこか暗く、重い空気に包まれていた。
私は仏壇のある部屋に通される。彼女の母が私を見て「忙しくて何も出せないけど、ありがとうね」といった。
畳の部屋に彼女の妹は寝ていた。白い布団を被り、顔は青白いながらも美しい。
私が触ってもいいかと彼女に聞くと、彼女はいいといった。私は頬を手の甲で撫でる。ドライアイスが布団の下にあるからか、肌は冷たく少し乾いていた。
彼女の妹は不思議な子供だった。動物的とでもいうのだろうか、雨の降る日を当てることができたり、何もない山を指さして大きな人が歩いていると言ったりした。急にいなくなったかと思うと、バケツ一杯に魚を入れて帰ってくるなどという珍事件もあった。
私は彼女に狐の人と呼ばれていた。何でも私には狐の霊が憑いているらしい。
今となってはそれらの真偽を確かめる機会は永遠に失われてしまった。
姉の方と話をしながら彼女を眺めていると枕元に三本ほどの白い野花が置かれているのに私は気づいた。
「これは?」
ああ、またと溜息まじりに彼女はいう。
「……なんかね、その子が死んじゃってから何かそういうの、多くて。ほら、○○ってトクベツな子だったじゃない。おばあちゃんはきっと、いろんなところの神様が別れを惜しんでるんだろうって」
彼女は花を大事そうにまとめ、花瓶を探しに部屋を出た。
全てが終わった帰り、私は植物図鑑やインターネットで彼女の枕元に置かれていた花を調べた。十字を描く白い花。
「これか……」
ある島、固有の植物で本土には生息していないことが分かった。
どこからどうやって運ばれてきたのかというよりも、私は彼女の顔の広さに驚いた。
彼女は何でもできて、どこにでも行けたのかもしれない。
他人の死や不幸をネタにしたこの話は最低かもです。
一応許可は取っていますが、やはり何か罪悪感のようなものがあります。
削除するかもしれません。