第4話
「ねぇシノブ。私って貧素かな?」
「いいえ、確かに小柄だとは思いますが、貧素ではないですよ」
ディアナは軽装の革鎧、腰にはショートソード。小柄なため、バランス的にはロングソードに見えるのだが、ショートソードである。どう見ても剣士の格好だが、魔術師である。
ディアナは前世と同じ顔、体格をしている。日本では標準的なのだが、この世界では小柄で、12〜13歳くらいに見える。(ちなみに16歳です)
シノブは身体にぴったりフィットとした忍装束で、この世界ではほとんど見かけない格好をしている。忍者なのだが、この世界には無い職業のため野伏という事にしている。
「大きいわね...」
シノブの胸部装甲を見たディアナがポツリと呟いた。
「な、何を!」
顔を真っ赤にしたシノブが胸を隠すような仕草をした。
「E?いやFくらいかしらね」
「...............」
これ以上喋るのはまずいと判断したシノブであった。
「ずぅぅん...」
「どうしてお嬢様が凹んでいるのですか?」
「聞かないで...」
人はこれを自爆と言う...
「やかましいわっ!」
彼女たちが向かってるのは、そう、冒険者ギルドである。
「ここね」
〜からん〜
冒険者ギルドに入ってきた2人を一斉に見る冒険者達。
「わお、ゴリマッチョばっか!」
「シッ、静かにしてください」
マッチョに興奮するディアナに注意をするシノブ。
「ここでだいたいテンプレがあるのよね」
「なんですか?てんぷら?」
「いやこういうとこに来ると、必ずあるイベントなのよ」
「はいはい」
意味不明なことを言うディアナを放っておいて受付に向かうシノブであった。
「すみません、冒険者登録したいのですが」
「はい、お二人ですね。この用紙に名前、年齢、性別、職業を記入して下さい」
「はい」
「書けました」
「どうもありがとうございます。えっと...ディアナさんが魔術師で、シノブさんが野伏ですね」
「はい、そうです」
「それでは冒険者について説明します」
受付嬢の説明によると
冒険者にはランクがあり、Sを頂点にして、A、B 、C 、D、E 、F の7段階有り、Fは15歳未満の見習い。ディアナ達は2人共Eランクである。
依頼ボードからランクに合った依頼書を受付に提出し、依頼を達成後、報酬を受け取る。という流れである。
「ラノベと同じね」
「らのべ?」
「ああ、いいのよ。独り言」
「お嬢様は時々意味不明なこと言いますね」
「はい、これが冒険者プレートです。失くさないようにしてくださいね」
「はい」
ディアナとシノブが冒険者プレートを受け取ってホクホクしながら依頼ボードに向かっていると...
「よぉ、お嬢さん。ここはてめーらみたいなガキが来る所じゃねーぞ」
筋骨隆々のデカい男が絡んできた。
お、テンプレキターとばかりにディアナがシノブにハンドサインを出した。
(手を出すな、絶対!)
「何?アンタ。私はアンタのようなゲスなゴリマッチョは嫌いなんだけど。細マッチョならウェルカムなんだけどねぇ」
ほとほと呆れたようにゴリマッチョを煽るディアナ。
「なんだと!」
「あら聞こえなかったの?顔もだけど耳も悪いのね」
「このっ!」
バコーン! ガチャーン!
モロに顔を殴られたディアナは3メートルくらい吹き飛んでテーブルに突っ込んだ。
「お嬢様!」
シノブがディアナに駆け寄った。
「おいおいいくらなんでもやり過ぎじゃねーのか」
「そうよ、あんな小さな女の子を殴るなんて」
もはやブーイングの嵐であった。
「お、俺は、殴るつもりは...」
「つもりがあったとかないとかそんなことかんけーねーんだよ」
「ものには限度ってもんがあるだろーが。それでも冒険者か?」
そんな喧騒の中、受付嬢が慌てて駆けつけて来た。
「あなた!何て事してくれたの!この子はシュナイダー侯爵のお嬢様よ!」
青ざめる男。
「え、あのシュナイダー侯爵家のご令嬢?」
「ここに居たらやばい、関係ねーやつは外に出ろ。シュナイダー侯爵家を敵にしたら消されるぞ!」
殴った男のパーティー以外の冒険者達は慌ててギルド立ち去った。
「さて、と」
何も無かったかのように立ち上がったディアナ。
「どうする?まだ殴る?」
「いい、いや、あ、あの」
ガチガチと歯を鳴らしながら震える男達。
「「「「すみませんでしたぁぁぁ」」」」
一斉に見事な土下座を披露した。
「何事だ」
「ギルマス」
騒ぎを聞きつけてやってきたギルマスは、受付嬢から事情聞くと険しい顔になり...
「お前ら、ギラドのパーティだな。しかし何てことしてくれたんだ。冒険者資格剥奪くらいではすまんぞ。無抵抗な冒険者、それも入ったばかりの女性に暴力。もちろんギルドも責任はあるが、貴様らは憲兵に引き取ってもらう。立派な傷害事件の加害者としてな」
ギラドのパーティ4人はガックリと崩れ落ちた。
「どうも、申し訳ない、シュナイダー侯爵令嬢」
ギルマスは深く頭を下げた
「ああ、構いませんよ。ゴリマッチョのパンチがどんなものか興味があったから。意外に大した事無いのね」
「え?」
「だから今回のは無かったことにして下さいな。しかし、次は容赦しないけど。マジで、それでもいい?」
カクカクと首が千切れんばかりに頷くギラドのパーティ達。
「あはは、豪快なお嬢さんだな。てめーら命拾いしたな。もうこれに懲りて新人歓迎はやめることだな」
わはは、と笑いながら帰っていくギルマスと受付嬢。逃げるように立ち去るギラドのパーティ達であった。
「それでですね」
「ん?何?」
「どういうことですか?」
「いや、パンチが当たる瞬間に飛んだだけよ。でもあれくらいなら当たっても大丈夫だったかな。ちょい身体強化魔法使ったら平気だったわね」
「鬼か!」
まぁ、絡まれてからのカウンターというテンプレに飽きた。とは言えなかったらしい。
「じゃ、依頼でも見ますか」
「んもう〜マイペースなんだからぁお嬢様はぁ」
これから先が思いやられるシノブであった。