第3話
「このバカモンがぁぁ」
「どうして俺...私が怒られなければならないのですか?」
「分からんのか?勝手にディアナ嬢と婚約破棄したなどと言いおって」
「何が悪いのです?あんな貧相な女」
「まさか、お前、ディアナ嬢にそれを言ったのか?」
「もちろんです。あとヘレナと婚約するとも言いました」
フン!と胸を張って親父に言ってやった。がはは
バシーーン
親父に殴られ吹き飛んだ。
「何故、何故殴るんだ」
「お前自分の立場がわかってるのか?」
「お、俺が間違えるわけないだろう」
「はぁぁ、コイツに期待したワシが馬鹿だった。よく聞けバカ息子!我が伯爵家はシュナイダー侯爵家の援助がないと没落するのだ。それに侯爵には借金もある」
「え?」
「あれほどディアナ嬢を大切にしろ!と言ったのにぶち壊しにしおって。土下座までしてやっと取り纏めた婚約だぞ」
「い、い、いや、しかし、ヘレナの、シュヴァルツ子爵家もかなりの資産家だと...」
「バカモン!侯爵家と子爵家では雲泥の差だ!それにシュヴァルツ子爵家は金属加工業だぞ。設備費用や材料費など運転資金が必要なのだ。あれは資産ではなくて、資金だ。そんなこともわからんのか!」
「ど、どうすれば...」
「今すぐにシュナイダー家に行って、ディアナ嬢に謝って婚約破棄を撤回してもらえ!土下座しても何してもだ!出来ないなら廃嫡する!分かったら行けぇぇ!!」
「はひぃ」
ーーーーーー
糞、何で俺様が謝らんといかんのだ。
親父も親父だ。あんな侯爵にヘラヘラして。無能め。
俺様が当主になったら画期的なアイデアで大金を稼いでやる。
俺様は天才だから...いや、ちょっと外聞が悪いな。秀才くらいにしておこう。
それくらいが貴族たるものだな。やっぱりデキる男は違う。
しかし、ディアナか...
仕方ない、あの貧素な女で我慢して、ヘレナは妾にでもするか。
う〜ん、どうするか。
一度は婚約破棄すると言ったからなぁ。
俺様が頭を下げる訳にもいかんし...
お!そうだ!
俺様のこのマッチョな体でディアナを篭絡するか。
がはは、向こうから泣いて婚約破棄を取り消して、と懇願するだろう。
ん?ここが侯爵家だな。門番か...
「うむ、ご苦労。ヴォルフ伯爵家嫡男、カールだ、通せ」
「なんだぁ生意気なガキだな。ここがシュナイダー侯爵様の邸宅と分かって言っているのか?」
「あん!門番如きが偉そうだな」
「何!今門番如きと言ったか?」
「ああ、門番如きだろ?俺様は伯爵家嫡男だぞ」
「ガキ!いいことを教えてやろう。門番をバカにするということは、この家...つまりシュナイダー侯爵家をバカにするということだ。我々は侯爵様の命を受けてここにいるのだからな」
「たかが門番だろうが!」
「分からんガキだな。この家は門番である俺たちが守っているのだ。それともヴォルフ伯爵とやらは、シュナイダー侯爵家と戦争でもしたいのか?」
「...貴様如きこのマッチョな筋肉の体の俺に勝てるのか?」
「はあああ、そ、それがマッチョな筋肉だと...貴様は俺たちを笑わせに来たのか?ただの贅肉にしか見えんぞ!この豚め!」
「何!俺様を豚だと。後悔しても知らんぞ!通せ!」
「無理に通るなら覚悟あるんだろうな。斬る」
げ!剣を抜きやがった。あの顔は...マジだな。
「クソ!覚えてやがれ!」
「ガキが!お嬢様の敵め!今度来たら問答無用で斬る!」
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「糞、糞、糞!」
カールはマジギレした門番に恐怖して少し漏らした。
先日まで問題なく屋敷に通されていたのは、あくまでディアナの婚約者だったからだ。
カールは自分の身分だと思っていたようだが。
「しかしどうするかな。このまま家には帰れないし。糞、無能な親父め」
ここまでくると、よほど、いや圧倒的にカールの方が無能で愚かなのだが、自分はマッチョな秀才、いや天才と思っているので、気づきもしないのであった。
「そうだ、夜こっそり侯爵家に侵入すれば。がははやっぱり天才だ俺様は」
侯爵家、いや貴族家の無断侵入は重罪である。もちろん平民家でも厳罰なのだが、特に高位貴族家には様々な機密の情報があり、無断侵入すればその場で斬り捨てられるか、良くて終身犯罪奴隷、普通は極刑となる。もちろん親族もただでは済まない。なので、いかに凶悪な犯罪者でも、普通は貴族家には手を出さない。もちろんこんな事は子供でも知っている常識なのである。
しばらくして、ヴォルフ伯爵家は取り潰された。
シュナイダー侯爵が手を下だすまでもなく、自滅したのであった。