第1話
本作品は、柴野いずみ様主催の「ガチムチ❤️企画」参加作品です。
全6話。
ボディビルのポージングは、筆者がど素人なため、ふわっと「なんとなくこんな感じ」でご容赦お願い致します。
「ディアナ、貴様との婚約は破棄する!」
「はぁっ?」
何故かフロントリラックスのポーズをとりながら、婚約破棄宣言をしたのはヴォルフ伯爵家嫡男、カールです。
残念ながら、彼は私、シュナイダー侯爵家次女、ディアナの婚約者です。
「だから婚約を破棄すると言ったのだ!」
2度言わなくてもわかるわ!というをグググッとこらえました。
ぶっちゃけめんどくさいからです。
「あのぉ〜別に婚約破棄は良いのですが、お父様やヴォルフ伯爵はご存知なのでしょうか?」
「はああ?何を言ってるんだ!次期伯爵家当主の俺様が良いと言ったら良いのだ!」
「そうですか...」
というのは、この婚約は完全に政略的なものだからです。
シュナイダー家は国内で3本の指に入る大手、アルト商会を経営しています。
一実は私、元日本人の転生者なんです一
私が前世の記憶を思い出したのが10歳の時。それからはお父様に様々な日本のアイディアを提案して「それは画期的だ!」ということで、新商品を次々に開発し、元々中堅商会であったアルト商会は瞬く間に成長したのでした。
まぁ前世を思い出してから、この世界のものが非常に不便だった、というのが本音なのですが...
このアルト商会はいわゆる総合商社で、傘下の商会を束ね、様々な事業を手掛けています。
(子会社とならないのは、この世界には株という概念がないからです。しかし、傘下となった以上は庇護を受けるかわりに売上に応じた金銭の支払いが契約によって義務付けられます)
カールの実家であるヴォルフ伯爵家はナイス商会を経営しており、アルト商会の傘下でもあります。
ナイス商会は、領地に鉱山があり、アルト商会の鉄鋼部門です。
ヴォルフ伯爵の先々代が優秀で、元々子爵であったのが、様々な功績をあげ、一代で伯爵に陞爵したのでした。
しかし「三代目が会社を潰す」とはよく言ったもので、現当主であるザイトスに代替わりしてから、その無能ぶりによって業績はみるみる下がり、傘下としての支払いも滞り気味で、アルト商会としても看過出来ないものとなっていました。
しかし、いくら傘下で格下とはいえ、他の貴族家の細かい内政まで口を出すことはできません。
そこで私とカールの婚約が決定したのでした。その時ディアナ14歳、カール15歳。
お父様としては私に、ナイス商会を立て直してもらおう。という魂胆らしいです。
現在、ディアナ16歳。
カールは父親譲り、いやそれ以上の無能で、さらに傲岸不遜を絵に描いたような人物でした。
「貴様が侯爵令嬢だからといって偉そうにすんなよ!この国ではそういうのは禁止だ!」
「はぁ」
確かにこの国では、権力を振りかざすのは禁止されています。が、それはあくまで理不尽な要求であったり、非合法なことを強制することであって、決して格上の者に理由もなく逆らったり、暴言を吐いてもいい、というものではありません。このバ...カールはそこを履き違えているのでした。
「それで婚約破棄の理由は何でしょう?お父様にも報告しなければならないので教えてください」
ふん!と何故かフロントラットスプレットのポーズをするカール。なんだコイツ...
「それはお前の体が貧相だからだ!マッチョな俺様には相応しくない」
「え、ええっ」
思いもよらなかった理由に私は絶句してしまいました。
確かにカールは大きな体躯をしています。しかし鍛え上げられたというよりは、肥満というのがぴったりだと思うのですが...
「それに比べてヘレナはいい。素晴らしい体だ。俺は彼女と婚約する!」
カールがヘレナと親しくしているのは気づいていました。
ヘレナはシュバルツ子爵家の令嬢で、確かにふくよかな身体をしていました。
「それは私という婚約者がいながら、浮気をしたということでしょうか?」
ここは大事です。責任の有無をはっきりしなければいけません。
「浮気ではない、真実の愛に目覚めただけだ」
でたぁぁぁ〜「真実の愛」マジ馬鹿かこいつ。
「いや、それを浮気というのですが...」
笑いをこらえるのが必死でしたが何とか話すことができました。
「うるさい!うるさい!うるさい!浮気ではない!」
これは何を言っても駄目そうです。
「分かりました」
「フン!分ればいいのだ。俺様は次の「マッチョ競技会」に出る。がはは...この体なら優勝間違いない。ヘレナは前回20位だったらしいからな。彼女こそ私に相応しい」
一マッチョ競技会一
これは20年ほど前から流行りだした競技会で、恐らく私と同じ転生者が提案したのでしょうね。
それまでは、「武術大会」が主流だったのですが、怪我人が続出するため、「野蛮な競技」としてその時の国王が禁止したのです。
提案した転生者は、もちろん「ボディビル」を提案したのでしょうが、この世界の人々が正しく理解出来るわけもなく、審査基準も現代とは異なるのでしょう。
娯楽の少ないこの世界なので、貴族社会で爆発的な人気となり、その競技会に出場することは一つのステータスとなっていました。それにより平民に参加する資格はありません。
さらに10年ほど前からは、女性も参加出来るようになりました。
当たり前ですが、男性と女性は別会場で実施され、異性の立入は禁止です。
「ヘレナさんは出ているのですね」
「そうだ、貴族の令嬢として当たり前だろう。まぁ貧素な貴様は出る資格もないだろうからな。ガッハハハ」
女性で競技会に出るのは、ほぼ下位貴族だけなんだけどなぁ〜それも無理矢理。
そう、普通女性はそんな競技会には出たくない。しかし、下位貴族にとっては派閥の高位貴族からの要請であったり、商会を経営している家では宣伝になります。
恐らくヘレナさんも家のためにいやいや参加したのだろう。
カールはそれが分からない。だって自分は間違えるはずはないと思っているのだから...
「とりあえず、婚約破棄の件了承しました。そのように進めますがいいですね」
「だからいいって言ってるだろうが!早くしろ!」
「分かりました」
そして、カールは帰って行きました。
「私もあんなデブは嫌いだわ。やっぱ細マッチョの方がいいわね」と、ポツンと独り言。
「お前もマッチョに興味あるんかい!」と突っ込まれそうですが、そりゃあね、どうせなら...