後から悔やむのが後悔
大変迷走しております
あと少しで終わる筈
きっと、多分、Maybe、perhaps
封を開けた紅茶は皮肉にもマリアージュの名を冠した黒い缶が特徴的なフランスの有名ブランドの物だった。
「今の私たちに『マリアージュ』って、ねぇ?」
苦笑いする香織の前に紅茶をサーブし終えた武尊は香織の横に腰掛ける。
「でも香織は此の銘柄、多分好きだよね」
紅茶を一口飲んで香織は頷いた。
「そうね、此の甘いフルーティーな薫りが大好き」
好みを覚えていてくれる、こういった気遣いの出来る処は流石だなと感心する。
「武尊は本当に優しいわよね。 貴方に愛された茉莉さんは幸せだったんだろうなぁ」
紅茶の芳醇な薫りに誘われて思わず口から本音が溢れてしまった。
香織の言葉に一瞬驚いた顔をした武尊は、考えながら応える。
「ん?違うよ、私は優しいんじゃなくて親切なだけだよ。 でも、……茉莉は幸せ、だった、のかな。 ……だったらいいな」
本当にそうだったらいいな、もう一度そう言って武尊は寂しそうに笑った。
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本当にそうだったらいいな、そう呟いた武尊の横顔はとても寂しそうで、ツキリと何か棘の様なモノが胸に刺さった気がした。
彼を追い込んで支配したいと思っていた筈なのに、今更罪悪感を持ってどうするの。 ちゃんとしろ、と自分に言い聞かせる。
だって仲良し小好しの夫婦ごっこを最初に壊したのは武尊の方だ。 だったら私は自分を、そして此れからの平穏な結婚生活を守る為にも主導権を握らなくてはならない。
でも、本当に? 本当に自分は武尊との結婚生活を続けたいと望んでいるのか、何より武尊との子どもを産みたいと本気で思っているのかしら。
武尊と交際を始める前は結婚も、ましてや子ども何か仕事の邪魔になるとしか思っていなかった筈。
周りの人たちから色々と言われて面倒くさくなっていた時に比奈子から紹介されたのが武尊だった。
交際を始めて直ぐに理想的な結婚相手だと思った。
実際、今までの結婚生活はとても『楽』で、家事もきちんと熟して収入も文句なく、不満があるとすれば性生活だけ。 でもそれも今回の攻守逆転で解消される筈。
それにしても私は何時から『子どもを産まなくてはいけない』と思う様になっていたのだろう……?
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貴方に愛された茉莉さんは幸せだったんだろうなぁ、まさか香織がそんな事を言うとは思わなかったので、とても驚いた。
本当にそうだったのならどんなにか良いだろうか。
私は茉莉と一緒にいられて本当に幸せだった。 私の感じた幸福感の半分でも茉莉が感じていてくれたら、何時もそう思っていた。
だから昨日の香織の言葉は私の心に深く突き刺さって粉々に砕いた。
『そもそも彼女が自殺したのだって本当は武尊の所為じゃないの?ああ、『私が殺した』んだったわね、何だちゃんと理解ってるじゃない』
薄々自分でもそう思っていたから。 私が茉莉を他の男に取られたくなくて束縛していたから、だから汚された自分を許せなくて自殺してしまったのではないだろうかと――…。
もっとちゃんと愛を伝えれば良かった
茉莉は居てくれるだけで良いんだよと言えば
微笑ってくれたら、只それだけで私は幸せだよと
何故もっとちゃんと口に出して伝えなかったんだろう
言わなくても理解ってくれるだろうなんて、思い上がりも甚だしい
後悔しても時は戻らない、茉莉はもう二度と微笑ってはくれない。




