妻の過去
R18版に合わせた物と差し替えています
愛している人から愛される、其れは当たり前の事なんかじゃない。
どんなに想っていても告げる事も出来ずに終わった、そんな何処にでもある様な只の片想い。
大学の学祭の打ち上げの飲み会終了後、二人で並んで歩く駅までの道のり
今日こそは想いを告げようと、何時もよりお洒落した私に『可愛いじゃん、似合うよ。お前もそんな格好するんだな』と笑う貴男
――ありがとう。あのね、ずっと前から私は貴男が好きなの――
そう言おうとして立ち止まった私に、貴男の口から続いた言葉は私の心を引き裂いた。
『あー、彼女には悪いけどけど、やっぱりお前といる時が一番落ち着くな。本当に大切な親友だからずっと此のままの関係を続けたいよな』
彼女には悪いけど、そう言って照れ臭そうに笑う貴男に笑顔で頷くしかなかった惨めな私。
そうか、彼女が出来たんだ――…
一番大切な友人は恋人にはなれなかった。
高校二年生の時から貴男が好きだった。無理だと言われたけど、頑張って同じ大学に合格したのに。
サークルの後輩に告白されたなんて知らなかった。
大学を卒業して就職してからもからも私たちの関係は変わらなかった。
『仕事が忙しくてデート出来ないから彼女に振られそうだよ』
『だったら私なんかと呑んでないで、さっさと彼女に会いに行けばぁ?』
『彼女の両親厳しくってさ、こんな時間に行ったら出禁になっちゃうよ』
何故、私が貴男の惚気話を聞かないといけないの?
『誕生日プレゼントに指輪を贈ろうと思うんだけど誕生石だと重すぎかなぁ』
嫌だ! もう聞きたくない。
私以外の女を見る目は潰してやりたい。
何処にも行けない様に足を潰してやりたい。
彼女を抱けない様に両手を切り落としてやりたい。
『お前といると一番落ち着くんだよな』
何時かの貴男の言葉が胸を過るが、そんな関係は望んでいない。
一番じゃなくてもいいから、二番目でも三番目でもいいから恋人として扱って欲しかった。
『え?結婚、する、の……?』
まだ就職して一年も経っていないじゃない。
彼女だって来月、大学卒業するんだよね? 待って、まだ早い……
『子ども、授かっちゃって、さ。予定よりちょっと早いけど何れは結婚するつもりだったし……な?』
照れながら、逸れでも嬉しそうに話すのね。
『そんな事を言って、本当は彼女が社会人になって他の男に目移りするのが嫌で態と子どもができる様にしたんじゃあないの?』
ワタシ、チャント笑エテイルヨネ?
結婚式の招待状が届いた翌週、貴男から泣いている様な声での突然の連絡
『香織、助けてくれ、、』
慌てて待ち合わせの店に駆けつけると今まで見たこともない表情の貴男がいた。
『癌だって……今すぐ治療を開始したら助かる可能性もあるのに……お腹の子どもを優先するって譲らないんだ』
『産まれてもいない子どもなんてっ! 子どもが産まれても、彼女が死んだら意味がないじゃないか!』
治療の為に35周で帝王切開、其れが医者からのギリギリの譲歩
お見舞いに行く度に窶れていく彼女の姿
『ごめんね、ちゃんと産んであげられなくって』
『死にたくない! この子は私が育てたいっ!』
『神様、お願いします! この子を置いて逝きたくないです』
痩せ細って管だらけの彼女の目は生きる事を諦めてはいない。
『先輩、私が死んだら彼とこの子のコト――、ううん、何でもない! 絶対に治ってみせるから! 絶対に!』
『当たり前じゃない、彼に必要なのは貴女だけなのよ。親友の私が保証する』
入院していた病院に運ばれて来た患者が自殺未遂だったと知った彼女の顔は忘れられない。
『要らないなら私にちょうだい……薬も、放射線も何でも耐えてみせるから! 要らない命なら私にちょうだいよぉっ―……!』
彼女の不幸なんて望んでいなかった。
――本当に?居なくなればいいのにって思ってたよね
彼の為にも二人には幸せになって欲しかった。
――本当に?死んでしまえって思わなかった?
彼女は半年の闘病の後に天に召された。
私は二度と貴男に会うことは出来ない。
――だって貴男を心配する親友の、彼女の優しい先輩の顔をして、本当は心の底では彼女の死を望んでいたのだから。




