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櫻の樹の下に埋まっているのは  作者: 朝倉メイ
第二章 夫の過去
12/25

プロローグ 恋の始まり

武尊にも愛があった頃のお話です

第二章には香織は出ません


※ムーンライト版に合わせて一緒に暮らす時期を変更しました

 彼女に初めて会ったのは小学校の入学式だった。

葉桜になりかけた桜の舞散る花弁(はなびら)の中に佇む少女に目が釘付けになった。

大勢の新入生の中で私の目には彼女だけが輝いて見えた。


 それから卒業迄の6年間一度も同じクラスになれなかったが、運動会、学習発表会などの行事では何時も彼女の姿を探していた。

 月元(つきもと)茉莉(まり)という名前以外は何も知らなかった。話しかける事さえしなかったから。


 卒業式の日、『卒業おめでとう』と書かれたリボン胸章を無言で彼女に差し出した。彼女も黙ったまま自分の胸章を渡してくれた。

結局、6年間一度も話す事はなかった。

彼女とは中学校の学区は違っていたので、私の恋はそこで終わる筈だった。



 彼女に再会したのは大学のサークル・部活動勧誘の会場だった。

入学式が終わって門に向かうまでの間に大勢の学生がごった返していたが、私の目は彼女に吸い寄せられた。

12年前のあの日と同じ様に桜の花吹雪の中に佇んでいた。

「茉莉……」

思わず溢れた小さな囁きに彼女は振り向いた。

「杉下、武尊……君?」

 6年間も会っていなかったし、彼女はもう少女ではなく、私も少年ではなかった。

 それでもお互いに一目で判った。


 茉莉は見惚れる程の笑顔で話し掛けてきた。

「杉下君、私の事よく判ったわね。背だって伸びたし、お化粧もしているのに」

 私も身長は20センチ以上伸びているし、顔だって変わっている筈だ。

「全然、変わっていないよ。ま…月元さんこそよく解ったね」

 茉莉と言いかけて慌てて月元さんと言い直した。

「杉下君、そこは綺麗になったねって言うところよ?」

そう言って彼女はころころと笑った。


 出会ってから12年、これが初めての会話だった。

その日彼女に想いを告げて、交際を受け入れて貰う為に土下座までした。


 直ぐには一緒に暮らせなかったが、休日には一緒に朝を迎える様になった。

「ずっと、こうしたかった。今まで何で離れていられたのか解らない」

柔らかい茉莉の身体を求めながら耳許で囁く。

私にとって彼女は初めての相手だった。


 中・高校生時代には自分で言うのも何だが女生徒に人気のある方だったと思う。

勉強も常にトップクラス、身長も中学校二年生の時にかなり伸びて目立つ様になった。


 高校ではバスケット部のレギュラーで、生徒会長も務めていたので教師からも信頼されていた。

漫画の影響なのか試合の時などには女子からの差し入れも貰ったものだ。


 高校三年間で20人以上に交際を申し込まれたのだが、顔が良すぎないのが良いのだと云われて複雑な心境だった。

よく知らない下級生たちにも告白されたが、彼女たちが本気で私の事を好きだったのかどうかは判らない。


 友人たちからは『適当な所で手を打てよ』と言われたが、そんな気にはなれなかった。

それなのに茉莉には大学で再会した日に交際を申し込み、その日の内に私の部屋で抱いてしまった。

どんな女性に交際を申し込まれてもその気になれなかったのが嘘のように彼女を欲した。


 お互いに初めての経験に戸惑いながらも夢中になって抱き合った。

茉莉が二十歳になると彼女の両親も折れてくれて、直ぐに二人で暮らせる部屋に引っ越した。

その頃の私は幸せの絶頂だった。



 愚かな私は初めて恋に溺れていた。この恋が永遠に続くものだと信じていたのだ。


武尊だって最初から屑だった訳ではありません


土下座しての交際申し込み、情けない初体験はお月様に書いています


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