1 長い時間が経ったのよ
資源の枯渇は今や深刻な問題だ。どうやら十世紀も前から危惧されていたらしいが、人とは意識しないうちに嫌なことから目を逸らしてしまうものだ。もちろん、何の策も取られなかった訳じゃなかった。各国の協力で地球の環境が壊れていくスピードは著しく低下したし、環境を破壊しかねない行為は、個人の単位で厳しく規制された。
そんな中、今から五百年くらい前。それはそれは大きな戦争が起きた。芋づる式に各国を巻き込んだほんとうに大きな、この世の終わりみたいなやつ。
消耗戦という言葉が正しいのかはわからない。でも、長く続いた争いの利益なんてどこにもなくて、どこもかしこも衰弱し、ボロボロになった。
問題はそれだけではなかった。長年にわたって各国の協定によって保たれていた環境の保全、これが開戦によって、破綻してしまったのだ。衣食足りて礼節を知る、とはよく言ったものだ。自国の存続が危ぶまれる立場にたった時、環境を守る協力体制なんて言葉はもちろん頭にはなくて、ただ皆が利己的になった。倫理的な観点から、直接的に地球を破壊する恐れのある兵器は使用されなかったが、争いによる各国の協定続行の困難が実質的な地球破壊を実施したのだった。
オゾン層は一度壊れたら復元不可って言ってたのにね。
容赦なく日光が降りそそぐ暑い日が続いたと思えば、いきなり集中豪雨がコンクリートを真っ黒に染める。
海の底に沈んだ国々。ここ数百年で、わたしたちの国の土地も一部が沈んでしまったらしい。
今は海に面している私たちの通う学校も、昔は下に広がる街並みを見守るように、小高い丘に立っていたのだという。
私の生まれるずっと前に沈んでしまった街がどんなものだったのか、私には全く想像できない。
何はともあれ、校舎の窓から見える海は、緩やかに、煌びやかな青を揺らしている。
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