中古ゲームにトリップしたら ~武器辞典拡張版~
家紋 武範様主催【隕石阻止企画】の参加小説です。
紅藤も含め、作中の英名武器が分からない方のために、簡易武器辞典を作成しました。
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俺は矢澤。ほんの一年前まで会社員をしていたが、今じゃ一流のハンター、そう思ってる。
とか言うと、田舎に帰って猟師でもしているのかと言われそうだが、違う。
俺の職業は『LeaHunter』。この世界に生まれる穢れ……Leaを浄化する仕事だ。
Leaは巨大な緑色の霧のようなもので、それ自体をいくら払っても数日で元通りになってしまうが、エリア内のLeaを浄化していくと出現するギミックやモンスターを破壊することで、結界のようなものが張れる。
そうすると、エリア内でLeaが自発することはなくなる。
他のエリアから侵入してくれば、結界も意味なしなのだが……。
まるっきり異世界で、ゲームの話みたいだ、って思っただろ。
実際その通りだ。俺は現代日本人で、旧作のゲームをプレイするのが好きだった。
一年前の流行のゲームと言えば、子どもでも気軽に遊べるヴァーチャルゲーム機が発売されたところで、スマホに入れてみんなで遊べるタワーゲームやロールプレイなんかが人気だったか。
とにかく、俺がいるのはそんなんじゃなくて、お一人様用の据え置きゲームの中ってことだ。
ほとんどプレイ経験もなく放り出されたからな、基本の遊び方から攻略まで、調べるのは大変だったぜ。
で、装備やアイテムも揃って、浄化活動も色々と落ち着いてきたんで、そろそろ元の世界に戻る方法がないかと思って、この間首都まで足を延ばしたんだが……。
「おう、珍しいな。首都で他の『LeaHunter』に出会うなんて」
「えっ、あんたも『LeaHunter』なのか。カッコいい武器だな」
「分かってくれるか、同志よ! オレはKumadeのオリオンだ。あんたは?」
他の地区に発生したLeaを浄化しているという同業者に出会った。
彼は首都に初めて来た俺、いわゆるおのぼりさんにすごく親切にしてくれた。
図書館の場所や、西にある砦で『LeaHunter』の国際登録をすると、安定した収入を得られること。
それから、『LeaHunter』として大切な掟や決まりごとの数々を。
「ヤザワ? 変わった名前だな。それで推し武器はなんだ?」
「推し武器? よく使ってる武器のことか?」
「まあ、そういう奴も中にはいるけど、どっちかって言うと……。例えばだけど、オレが最高にカッコいいと思ってるのがこの武器だ。これがオレの推し武器、Kumadeだぜ」
推し……か。そういえば、電車でボーっとしてるときに女子高生から聞いたことがあるな。
いや、盗聴とか無理やり聞いたんじゃないぞ!
会社に行く途中でたまたま聞こえてきただけだから!
「Kumadeって……さっき名乗ってた?」
「そうだ。『LeaHunter』は結構いるし、名前も被るから、推し武器で区別するんだ。と言ってもあんたみたいな名前は初めて見たから……そのままでも大丈夫かもしれないけど、やっぱり一流の『LeaHunter』なら推し武器の一つぐらい持ってないとな! あんたもそう思うだろ?」
そんなこと言われてしまったら、俺のコレクター魂が燃え上がってしまう。
そう、実は俺、やりこみのあるゲームが好きなんだ。
今まで切り替えるのが面倒だったから数種類の武器しか所持してなかったけど……、家でも倉庫でも何でも作って、全ての種類の武器を集めてやるぜ!
そしてその中から俺に似合う一番の武器を探し出すんだ!
ちなみに装備枠の関係上、防具は一つしか装備できないのでコンプリートは不可能である。
新しい防具が手に入ったら今までの防具の強化値を引き継いで、前の防具はなくなる。
これで何度泣きを見たことか……。
その日から俺の過酷……いや長すぎる旅が始まった。
まずは最初に浄化したエリアの武器屋によって全部買い占めた。
取っておいて良かった、偉い人に会うために貯めておいた大金!
【Viking-Swordを入手しました!】
【Gladiusを入手しました!】
【Falchionを入手しました!】
【Rapierを入手しました!】
【Crescent-Axを入手しました!】
【Partizanを入手しました!】
うーん、さすがに店売りで決めようってのは間違いか。
こういう誰もが持ってるような普通の奴じゃなくて……俺しか持ってないようなのが欲しいよな、と武器屋の店先で悩んでいると、反対側の鑑定屋の婆さんから声を掛けられた。
この婆さんはなかなかのやり手で、とぼけた顔して結構ボッタくる。
見た目や名前で用途の分からないアイテムの鑑定をしてくれる、外国語に造詣が深くない俺としてはとても活躍してくれる場所なのだが、いかんせん金がかかる!
常に売却額の半分取られるとか、ホント座ってるだけのくせしていい商売ですねえ!
「なんだよ婆さん。俺に用なんて珍しいな」
「珍しいなんてそんなの気にしてる場合じゃない。またこの辺りにも『Lea』が蔓延ってきてね、最近あんたこの辺を行ったり来たりしてるだけじゃないか。『LeaHunter』としてしっかり働いておくれよ」
「なんだって?」
俺が慌てて街の外に出ていくと、完全に浄化したはずのフィールドにLeaが生まれていた。
つまり、俺が首都に行ったり、武器屋コンプリートしている間にどっかからLeaが流れ込んで、ってあの辺やけに空が緑くないか? ああ、原因はあの山か!
隣町に続いているというそこそこ高い山から、緑色の霧が落ちてきていた。
その時俺の脳裏に浮かんだのは、『LeaHunter』として申し訳ないという思いより、これでまだ武器を集められるという歓喜だった。
Leaは浄化に伴い宝箱を発見できたり、ギミッククリアやボスクリアでアイテムが手に入るからだ。
完全にプレイヤー思考です、本当にありがとうございました。
武器屋でサボる『LeaHunter』に声を掛けたら、にやにやしながら笑って去っていくとか、マジ不気味だよね。婆さんすまんな、あとで金を落とすと思うから勘弁してくれ。
そして、効率よくモンスターを倒しながら日々は過ぎていく。
宝箱の中身は既に持っている場合は復活しないみたいだったから、そこまでは簡単だった。
【Morning-Starを入手しました!】
【Quarter-Staffを入手しました!】
【Javelinを入手しました!】
【Tomahawkを入手しました!】
【Flambergeを入手しました!】
【Misericordeを入手しました!】
そこそこレアな武器の数々。
けれど、ここで一つの武器がモンスターからドロップしたことで、俺の欲求はさらに上を知ってしまった。
【Executioner's-Swordを入手しました!】
それは俺の知っている剣の形とは違くて、美しい装飾が施されていた。
それと、意味は分からないなりに音の響きがカッコよかった。
敵は巨大なカマキリのモンスターだったし、たぶん演出だと思うけどそいつの周りにはたくさんの人の頭蓋骨が転がっていたから、人を殺すことに特化している剣……なのかな?
そして俺は思い出してしまったのだ。
ボスモンスターは低確率で武器やアクセサリーを落とすことを。
これも集めなきゃ、とてもコレクターは名乗れないよな?
ボスと宝箱を巡っての一つ目の旅は、こうして幕を開けた。
【Sword-Breakerを入手しました!】
【Candle-Stickを入手しました!】
【Tukushi-Naginataを入手しました!】
【Tonfaを入手しました!】
【Chakramを入手しました!】
【Parrying-Daggerを入手しました!】
中にはいつの日か手に入れ、お世話になり、そして捨てたり売ったりした武器もあった。
【Claymoreを入手しました!】
【Bloody-Maceを入手しました】
【Sword-Caneを入手しました!】
【Talwarlを入手しました!】
【Foilを入手しました!】
【Trench-Knifeを入手しました!】
そして相変わらずなんて読むのか分からない武器も。
【Main-Gaucheを入手しました!】
【Boomerangを入手しました!】
【Knuckle-Dusterを入手しました!】
【Cutlassを入手しました!】
【Scrammma-Scaxを入手しました!】
【Katarを入手しました!】
あと、なんとも言い難い感じのとか。
【Short-Swordを入手しました!】
入手時の俺:ショートソード? の割には長くないか?
鑑定後の俺:へえ、ショートソードって長さ関係ないんだ
【Ballock-Knifeを入手しました!】
入手時の俺:この柄の形おもしれー鑑定してみよ
鑑定後の俺:あ、これっそ、そういう!? うわーうわー恥ずかしい……
【Rousenを入手しました!】
入手時の俺:なにこれ? 竹?
鑑定後の俺:マジで竹なんだ……
【Man-Catcherを入手しました!】
入手時の俺:ずいぶんとエグイ感じのさすまただな
鑑定後の俺:……これはExecutioner's-Swordの隣に置いておこう
【Dress-Swordを入手しました!】
入手時の俺:ドレスソード? 貴族令嬢が身に着けてるのかな?
鑑定後の俺:決闘用の剣なのか! ……ちょっとカッコよく見えてきたかも
【Pillow-Swordを入手しました!】
入手時の俺:ピローって聞くとピロートークを思い浮かべる 思い浮かべない?
鑑定後の俺:護身用に枕の下に、かあ 結構見た目いいし、これでもいいかなあ
いい線行ってるのもあるんだけど、使いやすさとか考えると色々ね。
この間カッコいいと思ってた『Executioner's-Sword』なんか、鑑定してもらったら案の定めちゃくちゃ金を取られたんだけど、なんかね、処刑人の剣って意味らしい。
こいつが数々の人の首を刎ね飛ばしてきたのかーって思うと怖くて使えなくて。
今は家に置いてあります。隣にはMan-Catcherもあります。Bloody-Maceも。
エグイの置き場になってるせいで、何か出そう。幽霊とか、落ち武者とか。
今度、お札でも貼ってみようかな。聖水って、どこに売ってるんだろう。教会?
そして再び、この辺りのLeaをすべて浄化し、俺は二つ目の旅に出た。
次に目指すは、隣町とその山だ。
隣町もLeaの脅威に晒されているらしく、『LeaHunter』として浄化の旅に出るのは何もおかしくない。
というのはもちろん建前で、本当はLeaを浄化することによって手に入る武器が目当てだ。
世界の危機にこんなんで本当にすまんな。
俺にぴったりな武器を見つけるために、今はArbalestのヤザワとして旅を続ける。
そしていつか……推し武器を携えて正式に『LeaHunter』として登録するのだ。
俺はこの武器が好きなんだ、と語れるようにしっかり使いこなした上で。
読んでくださった方と、家紋 武範様に感謝を。
今回の後書き雑記は簡易武器辞典です。(前書きと同じもの)
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