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平宰相〜北条嫡男物語〜  作者: 小山田小太郎
西堂丸の巻(1543年~)
9/117

福島氏のルーツ

 顔合わせが終わり、明日は皆と一緒に生活することとなった。


 早雲寺の一日は朝食前に武芸の稽古があり、朝食後は学問の時間となる。昼過ぎからはそれぞれの課題に取り組む事になる。


 課題もそれぞれだ。武芸を磨く者もいるし、学問や教養を修める者もいる。年齢に幅があるため、幼い者には年上の者が付いて一緒に取り組んだりもするそうだ。


 本堂を出ると綱房と大学助が待ち構えており、大学助が声を掛けてきた。


「若様!せっかく湯坂に来たのですから温泉に入りましょう!」


「大学助殿、遊びに来た訳ではありませんよ。若様の護衛が我等の勤めです。」


「綱房は固いのう。若様も湯に浸かりたい筈じゃ!ならば我等も共に入って護衛すれば良いではないか!若様、如何ですか?」


 大学助は湯治の機会を逃したくないらしい。


「汗を流すのも良いかもしれぬな。大学助!案内せよ。」


 若様の希望ならばと綱房も苦笑しながら同意する。


 綱房に背中を流してもらい、湯に浸かる。いい機会だ、福島正成のことを聞いてみよう。


「綱房は今川家の福島氏に連なる者なのか?」


「そう思っている者も多いですが違います。我が家は日向の国、櫛間院に連なる家なのです。」


 おっと新説だ。続きを促す。


「武蔵猪俣党の野辺氏であった祖先が、日向国の櫛間院地頭職を得て移り住み、櫛間を名乗りました。日向では櫛間(くしま)福島(くしま)は同じ読みなのです。」


 日向国櫛間(くしま)城の麓には福島(くしま)川が流れているそうだ。


「櫛間野辺一族は伊作島津家に従っておりました。ところが伊作島津家が転封となり、我が一族は日向で帰農する者と武蔵を目指す者に分かれたのです。」


 伊作島津家が領地を削られての転封になったようだ。


「我が祖父の櫛間基正は明貿易での縁で駿河小川の長谷川氏を頼り、そこで早雲公と出会います。」


 早雲公が龍王丸(今川氏親)様を助け、小鹿範満を討った際には櫛間基正も与力したらしい。


「祖父は早雲公に仕え、今に至るのです。」


「忠貞も島津の者であったな。綱房は忠貞とも親しいが、何か関係しているのか?」


 綱房は嬉しそうに笑って答えた。


「よくぞ聞いて下さいました!私の祖母、即ち基正の妻は、忠貞様の御母上様の侍女をしていたのです!」


 島津忠貞は相州島津家の嫡流であったが、忠貞の異父兄である島津忠良が伊作島津家から入り、相州島津家を継いだ。忠良と忠貞の母である常盤の侍女をしていたのが基正の妻だったそうだ。


「忠貞様が小田原に来られた際、祖母が島津(ゆかり)の方と話がしたいと当家にお招きしたのですが、忠貞様が常盤様の御子息と分かった途端、60歳の祖母が大男の綱成兄上を上座から引きずり下ろして(かしず)いたのです。これには兄上も忠貞様も苦笑いするしかありませんでした。」


 その後、綱房達の祖母は「御姫様(おひいさま)の御子息のお世話は私がします」と言ったきり、忠貞の屋敷から帰っていないらしい。


 息子の正成が討死してから気落ちしていた祖母が矍鑠(かくしゃく)とし、嬉々として世話してる様子を見て、綱成も好きにさせているとのことだ。


「お祖母様にとって忠貞様は島津のお殿様なのですよ。」


 その行動は今川家から嫁いできたばかりの母上にとっても心強かったそうだ。北条家の中に相談ができる相手ができたのだ。


「お祖母様は用事ができると私を呼び出すので、私は島津家の小間使いのような有様ですよ。」


 綱房は笑いながら、忠貞の人となりに触れ、得ることが多いとも話してくれた。


「忠貞様は見識も広く、大将の器の方ですが、身を弁えて表に出ず、北条家に尽くしておられます。」


 綱房が最後に忠貞が名医であること、元服する際に教えを受けるから楽しみにして下さいと意味深な笑いをしながら教えてくれた。


 うん、これは6歳児には早い話題なんだろうなと納得した。


*おことわり*

福島正成のルーツは諸説ありますが、北条氏家臣説を採用しています。


ルーツについては個人的に一番納得できるルーツかなとは思っています。両上杉や成田氏の家臣にも福島性が散見されるので実際には北条に臣従した野辺櫛間と同族の福島氏ではないかと想像しています。


お祖母様は架空の人物です。

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