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平宰相〜北条嫡男物語〜  作者: 小山田小太郎
西堂丸の巻(1543年~)
6/117

周囲の変化

 遊び終えて屋敷に戻ると夕餉の支度ができていた。


 この時代は暗くなる前に夕食を摂る。日が暮れると門が閉じられて人の出入りの時だけ開けるようになる。もう子供達は寝る時間だ。西堂丸達は枕を並べて眠りについた。



 蝋燭を灯し、書見をしている氏康の元に福島(くしま)綱房が入ってきた。


「御本城様、島津忠貞様が御目通りを願い出ております。お通ししても宜しいですか?」


「陽が暮れてからの申次とは珍しいな。急ぎの用件であろうか、通せ。」


 忠貞が入ってくると早速問い質す。


「忠貞!何か問題でも起こったのか?」


「いえ、問題ではありませんが、西堂丸様が興味深い提案をされましたのでご報告をと思い、罷り越しました。」


 忠貞は西堂丸が考えた食事改善案を話し、医師として薬食同源の考えから賛成の意思を伝える。


「ワハハ!小童が食い意地が張ることよ。しかしながら倹約に努めよとの家訓もあるからのう。綱房、そちはどう思う?」


 話を振られた綱房は少し考えてから答える。


「綱成兄上も悪食(あくじき)でございましたから。魚肉を食して強い身体を作るというのも一理あるかと存じます。」


「ワハハ、綱成もそうであったな。白飯など歯応えが無くて食べた気がしないと怒っておった。鳥を狩っては焼いて食べ、魚など釣ったその場で捌いておったわ。言われてみれば亡くなった為昌も氏時叔父上も食が細い方であったな。白米から玄米に変えるよう賄い方に指示を出しておけ。五穀を混ぜてもよい。その代わり副菜は一品増やすこととしよう。」


 氏康の許可を得られたところで、西堂丸の教育について相談する。


「御本城様、西堂丸様は幼いながらも北条家の置かれている状況に興味を持っておいでです。利発なとこも見受けられますので、少し早いですが入門させてみるのは如何でしょうか?」


 大名の子弟は元服するまでの間、寺などで英才教育を受けることが多い。例えば足利将軍家の子供達は全員が入門し、将軍になる者だけが還俗する。北条家では一門や重臣の子弟が早雲寺で元服前の教育を受けている。


「まだ幼く早い。学んでいる子等の邪魔になるだけではないか?」


「御本城様の心配も尤もですが、手習いの様子など学ぶ習慣もできています。西堂丸様と共に学ぶことは他の子等への良い刺激になります。入門が難しいなら最初は通いでも良いと思います。」


「そうか、ならば試しに連れて行くがよい。綱房にも道中の警護を命じる。同行して様子を報告するように。」



 その頃、二曲輪猪助は仲間の段蔵を石垣の場所に呼び出していた。


「猪助!このような場所に一体何の用だ?長槍など持ち出して儂を討てとの命令でもあったのか?」


「そうではない。段蔵の軽業を見込んでのことじゃ。槍を抱えたまま、この壁を駆けあがれると言うたら信じるか?」


「馬鹿なことを言うな。そんなことができれば苦労せんわ」


 猪助は西堂丸の朝の出来事を話して聞かせ、段蔵に押し手を任せて壁を駆け上がる。今度は押し手と登り手を入れ替えて段蔵に登らせた。


「御曹司は面白いことを考えるな。猪助が入れ込むのも理解できる。諸国を巡ってみようと思っておったが、このまま仕えるのも面白いやもしれぬ。警護役に儂も加えてくれぬか?」


 西堂丸が夢から知識を得たことで僅かながらも周囲に変化が現れだした。

登場人物


福島綱房(1521-1549?)北条綱成の弟。弁千代・孫二郎・刑部少輔。


加藤段蔵(?)鳶加藤。風間次郎太郎に師事したと伝わる。


*おことわり*

人物の名前の呼び方は現代人の感覚で一般的なものにしています。元服前の人物に関しても氏康の子供以外は元服後の名前を使用する予定です。違和感を持つ方もいるとは思いますがご了承ください。

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