表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平宰相〜北条嫡男物語〜  作者: 小山田小太郎
新九郎の巻(1551年~)
51/117

麒麟が来る

 1557年秋 宇治 相模屋 風間小一郎


 丹波で使った帳面の記帳をしていると、手代の藤左衛門さんが声を掛けてきた。


「小一郎さん。伊勢様御家中の【斎藤利三(としみつ)】様がお見えですよ。旦那様がお呼びです。」


「はい、すぐに参ります。」


 帳面にしおりを挟んで急いで席を立ちます。この夏に三好様が丹波攻めを行った際、伊勢家は三好様配下の松山重治様の与力として出陣することになりました。相模屋にも動員がかかり、伊勢家の御用商人として兵糧の手配を任されたのです。


 斎藤様は伊勢貞良様の奥方様の縁で伊勢家に仕えており、美濃斎藤守護代家の一族でありながら伊勢様の軍勢として丹波の戦に加わりました。

 

 応接の間に行くと旦那様と斎藤様、それに明智様が談笑しておられました。



「斎藤様、明智様、丹波ではお世話になりました。」


「小一郎殿、世話になったのは我等の方じゃ。丹波の難路で滞りなく兵糧や弾薬を確保できたのは相模屋の手柄じゃ。それに相模屋の輜重隊は軍律も確かで装備も充実していた。羨ましい程であったぞ。我等が家臣に欲しいほどじゃ。」



 藤吉郎兄者の元で働いた経験がここでも役に立っています。輜重隊は普段から荷物の護衛役をしている足軽衆で、小田原から安く鉄砲弾薬を仕入れていることもあり、精兵なのです。斎藤様に褒められて旦那様も嬉しそうにしています。



「斎藤様、小一郎は相模屋の跡取り候補ですから誘惑はご遠慮下さい。まだまだ、学ばなければならないことが多いのです。」



「残念ではあるが、小一郎の事は諦めよう。ところで相模屋の装備を我等にも融通しては貰えないだろうか。鉄砲や弾薬の調達に苦労しているのじゃ。」



「手前共は鉄砲を扱ってはいないのでございます。ご存知の通り手前共は小田原の北条家に連なる商家で自前の鉄砲は取り寄せる事も出来ますが、お売りするのは堺の鉄砲商人達の手前控えているのです。」

 


 堺の武器商人とは今井宗久殿のことです。今井宗久殿は堺の顔役であった武野紹鴎様の娘婿となり、三好家の重臣松永久秀様に通じて財を成しておりました。旦那様は堺衆との軋轢を避けるため、畿内での鉄砲販売には消極的なのです。



「堺衆が鉄砲を独占しているのは承知しておる。相模屋も表立って堺衆と事を構えたくないのも承知じゃが、伊勢家に仕える我等の分だけでも何とか検討してはくれまいか。」



「伊勢様は北条家からも本家筋にあたるので無碍にはできませんが、美濃への取引は堺衆に睨まれる事にもなります故、協力できかねます。それでも宜しいかな。」



「承知した。美濃から我等に求められているのは朝廷や幕府との交渉事じゃからな。鉄砲の購入などは堺衆と直接取引しているそうじゃ。」



「ご理解ありがとう存じます。斎藤様のご本家は美濃ではどのようなお立場になっているのでごさいますか。」



 美濃国では斎藤道三様と斎藤高政様の親子が国主の座を巡り争い、息子の斎藤高政様が道三様を討ち取り、国主となっておりました。斎藤高政様は足利義輝様に一色姓を許されて一色義龍と名を改めていたのです。



「我が父、斎藤利賢は美濃守護代として幕府と朝廷の申し次ぎに専念しておりますので、道三様と義龍様の争いには中立を保っておりました。我等は元々傍流の家柄から引き立てられた身ですから、申次に関しては国主様に従うまでです。」



 斎藤利賢様は元々【斎藤守護代家の分家の一門】であったそうです。ところが美濃国守護土岐家の家督争いの際、斎藤道三様が斎藤守護代家を追放して分家を乗っ取り、守護代を名乗ったのです。斎藤利賢様は自ら望んだ訳でもないのに【守護代斎藤道三の一門衆】となってしまったそうです。更に斎藤高政様が【一色姓】を名乗ったことで、繰り上がりで守護代当主となってしまいました。



 野心の無い斎藤利賢様は代替わりしても信頼されているそうです。斎藤利賢様も信頼に応えて美濃国主の家格を上げるために奔走しています。息子の一人を足利幕府奉公衆【石谷光政】の養子に出して足利家との伝手を確保し、更にもう一人の息子の利三様を伊勢家に仕えさせて、三好家との伝手を確保しているそうです。



「明智様の御実家は一色様に領地を召し上げられたと聞きましたが、明智様は一色様にもお仕えしているのですか。」



 【斎藤内蔵助利三】様の御供の【明智十兵衛光秀】様は土岐明智氏の一族です。明智一族は一色義龍様に滅ぼされた際に土岐氏の縁を頼って越前に流れたと聞いておりました。



「私は道三様の正室であった叔母上(小見の方)の命で、伊勢貞良様に嫁いだ美濃御前の護衛を仰せつかっております。」



 明智十兵衛様は医術の腕を買われて、従妹でもある美濃御前付の医師としてお仕えしているそうです。



「今の美濃には思うところもありますが、美濃御前や内蔵助の力にならねばと思っているのです。時期が来たら明智家を再興する事も叶いましょう。」



 明智様も難しい立場で伊勢家にお仕えしているようでした。

~人物紹介~

明智光秀(?-1582)十兵衛、きりん。

斎藤利三(1534-1582)内蔵助、斎藤利賢の次男

斎藤利賢(?-1586)美濃守護代、明智光安の義兄

明智光安(1500-1556)光秀の叔父。一色義龍に滅ぼされる。

小見の方(1513-?)明智光安の妹、斎藤道三正室。

美濃御前(?)伊勢貞良の正室。斎藤道三の娘。帰蝶の妹


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] きりんさん、こんなところに…… この頃の経歴は謎めいていて鉄砲名人になったのも、畿内で仕えていた際に鍛えたものというのも、あり得なくはないでしょうね。(長良川の戦い後に朝倉家に10年仕えた、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ