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平宰相〜北条嫡男物語〜  作者: 小山田小太郎
新九郎の巻(1551年~)
40/117

初陣

 1555年 正月 躑躅ヶ崎館 武田義信


「旦那様、初陣でのご活躍、誠におめでとうございます。無事のご帰還に竹も嬉しゅうございます。」


 武田家は昨年夏から信濃南部への圧力を掛けていた。伊那郡に侵攻し、小笠原信定の鈴岡城を攻め落とした。


「儂の初陣は鈴岡城落城後の残党狩りじゃから、大した苦労はしておらぬ。」


「旦那様は大活躍であったと聞いておりまする。なんでも三百もの首を取ったと聞きました。」


「ほとんどが雑兵首じゃ。それも昌秀と昌景が段取りしてくれたようなものじゃ。」


 父上に頼み込んで工藤昌秀と飯富昌景が馬廻衆となった。下伊那侵攻でも飯富虎昌のような目を見張るような活躍こそ無かったが、堅実で隙の無い用兵をする。初陣で高揚と不安を感じていたが、この二人がいると安心感がある。


「今川家からの援軍の中に井伊直元殿も居られたぞ。初めて言葉を交わしたが頼もしい御仁であった。」


 下伊那で最後まで抵抗したのが神峯城の知久頼元であった。足軽大将の山本勘助も堅固な城を攻めあぐねていたのだ。その際、今川家から遠州勢が援軍として到着。その中に井伊勢もいたのだ。小勢であったが装備の充実した精鋭であった。


「兄上もおられたのですか。元気そうでしたか。」


「天龍川沿いを来られたそうじゃ。かなりの難路だそうで、二度と来たくないと笑っておられたわ。伊那におった井伊の一門の者の助言で神峯城攻略となったのじゃ。」


 神峯城は東側の尾根がなだらかで攻め易い弱点があった。伊那で長く暮らしていた井伊一門衆の助言があったのだ。


「旦那様は兄上とどんな話をされたのですか。」


「戦の話をしようと思っていたが、商売の話ばかりであった。直元殿は天龍川沿いで塩や木綿の商いができないか考えているようであった。」


「井伊の兄上も新九郎兄上に似てきたようですね。年寄りじみた兄弟ばかりで嫌になりまする。」


 竹姫は嫌がっているが、北条家の者は領地の経営に真摯なのだろうと感じた。下伊那の様子を見た直元殿は天蚕(てぐす)の産地になる可能性と製紙が出来ないかと考えたようだ。


 父上に進言して美濃から製紙職人を誘致しよう。小田原の紙商人も紹介された。同年代の者だが見習わなければならないな。



 井伊谷 お虎


 妾が懐妊した途端、重臣の奥山朝利が娘を行儀見習いと称して、旦那様のお世話にと連れて来た。それは妾の務めじゃと言って断ったが、母上のお世話として入り込んでいる。旦那様に色目を使ってるようで腹が立つ。


 ただ、夜のお勤めが出来ないのが旦那様に申し訳ない。旦那様にそれとなく聞いてみると、小田原では側室を得て子を儲けるのも家を乱す基になるとして、慎重に検討されるそうだ。ちょっと嬉しい。


 そんな中、今川様より信濃へ援軍に行くようにと井伊家に命令があった。旦那様は「井伊勢として初陣じゃ。恥ずかしくない戦いをしてくる」と意気込んでいた。


 悪阻で苦しんでいる妾を放ったらかしにして出陣するなんてと腹が立ったが、奥山の娘が近付くよりはマシだと思い我慢した。


 遠征出発の時、信濃に居る元許嫁の亀之丞が戦に巻き込まれているかもしれないと聞いた。複雑な気持ちであったが無事を祈っていた。


 遠征先から父上への手紙には井伊勢が亀之丞の手引きで手柄を立てたとあった。「流石は直元殿の鍛えた精鋭じゃ。」と父上は喜んでいたが、援軍なのだから大人しくしとけば良いのにと思う。武田の足軽大将が攻めあぐねた城にあんな小勢で出しゃばるなと言いたい。怪我でもしたら危ないではないか。


 遠征軍を中野直之が率いて帰ってきた。亀之丞も一緒であった。元許嫁だからと複雑な気持ちであったが、亀之丞は伊那に行ってすぐに笛の師匠とやらと懇ろになり、子供まで作っているというではないか。これほど節操の無い男だとは思っていなかった。


 これまでの妾の葛藤はなんであったのかとやり場のない怒りが込み上げる。しかも、奥山の娘が亀之丞の世話をすることになった。なんだか仲良さそうにしていて呆れてしまい、あんなに優しい旦那様に冷たくしてしまった事を後悔した。


 旦那様と小野政次は今川様への報告のため、駿河に行っているらしい。今回の手柄で亀之丞の帰参を願い出るそうだ。亀之丞のせいで旦那様の帰還が遅れているのに、亀之丞は呑気に奥山の娘と話してる。


 その姿を見て怒りがこみ上げる。誰のせいで旦那様が帰れていないのか懇々と説教したいところじゃが、それも旦那様のお役目だから仕方ない。


 旦那様から手紙が届いた。太原雪斎様の口添えもあって、亀之丞の帰参と元服が許されたそうだ。もうすぐ旦那様に会えると思うと落ち着かない。侍女達に笑われてしまった。



次郎法師のパートが中々書けず、時間がかかってしまいました。時間が空いてしまいました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 竹姫も次郎法師も武田義信の初陣と井伊直元の井伊勢としての初陣が うまくいって本当にホッとしたでしょうね。 良かった良かった。 どうやら、次郎法師は直元に情が移り女性…
[一言] 虎子さん、なかなかに夫婦としての愛がこなれてきてますね。 北条は火薬は生産していますが、今後の鉛玉の使用量を考えると北秋田の鉛鉱山を現地勢力と開発するか、いっそ鉄砲よりも棒火矢や臼砲、木砲…
[良い点] 信用できない嫁ぎ先に有益な内政情報を齎さない竹姫さんのファインプレー、なのかな? [一言] 井伊谷のツンデレさんがデレまくっておられる(
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