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平宰相〜北条嫡男物語〜  作者: 小山田小太郎
新九郎の巻(1551年~)
39/117

北条家の躍進

 1555年 正月 小田原


 戦国大名としての里見家が滅亡したことで房総半島は北条氏の勢力下に置かれることになった。今後の体制を定めるとして、父上は小田原城に重臣を集めたのだ。


「昨年は北条家躍進の年となった。各方面で皆が活躍してくれたお陰じゃ、礼を申す。先ずはそれぞれの話を皆で聞こうと思う。貞就(さだなり)からじゃ。」


 伊勢貞辰の跡目を継いだ伊勢貞就が口を開く。


「はい。足利義藤様が従三位に昇叙し、名を足利義輝と改めました。朽木にて帰京の機会を窺っておられます。」


「貞就、伊勢宗家にも慶事があったと聞いているが如何じゃ。」


「はい。宗家の嫡男、伊勢貞良(さだよし)殿が幕府御相伴衆の美濃守護代斎藤家より、御正室を迎えることとなりました。近衛晴嗣(はるつぐ)様の働きかけによるものです。」


 三好方に対抗する勢力として、六角氏が居たが単独では難しくなっていた。近衛晴嗣は美濃守護代斎藤家と六角氏との同盟を模索していたが、家格が合わないと六角氏が難色を示していたのだ。


 そこで斎藤氏の娘を伊勢宗家と飛騨守護代三木氏に縁付かせた上で、斎藤氏に一色氏の名跡を継がせて六角氏との同盟を斡旋。三木氏に姉小路家の名跡を継がせて、足利幕府の有力な与力とする運動を起こしているのだ。


「そうであったか。三好家に対する幕府の巻き返しじゃな。宗家も間に入って色々と大変かと思うが、万一の時は北条家を頼るように伝えてくれ。」


「承りました。お伝えいたします。」


「次は家中のことじゃ。綱成、話を聞かせてくれ。」


「はい。房総半島は北条家の勢力下に置かれることになりました。久留里城には北条綱高殿が入っており、これに伴ない赤備の拠点も久留里城に移ります。稲村城を廃城とし、新たに館山城を建築中です。館山は屋久水軍の拠点とし、新納忠光を配しております。」


「綱成、相分かった。次は北関東の件じゃ。幻庵、報告せよ。」


「はっ、古河から鎌倉へ公方様が移ったことで、古河周辺の国人領主の力関係が変化しておりまする。」


 北関東には古河公方家が認めた八家の屋形号を持つ家がある。古河公方の権威が低下したとみた国人領主が、勢力を拡大しているのだ。


「八屋形の一つ、結城家では与力同士での争いが起こり、多賀谷氏が岡見氏や相馬氏の牛久地方を横領しておるようじゃ。多賀谷氏からは家中の争いであり、北条家に弓引く行為ではないと釈明が来ておりまするが、御本城様の裁可が必要かと存じまする。」


「相分かった。多賀谷の言い分を認める訳にはいかぬな。結城家に肩入れする事にしよう。ただし、結城家に藤菊丸を養子として送り込む。幻庵、交渉は任せる。」


「はい。結城家には嫡男がおりませぬ。良き思案かと存じまする。」



 side 鮎川文吾


「文吾殿!土嚢が足りぬそうじゃ。急ぎ手配して下され!」


「小一郎殿、こちらも手一杯じゃ。喜八のところはまだ、余裕がある筈じゃ!」


「相分かった。兄者はこんなに人使いが荒いのですか。文吾殿も大変ですね。」


 藤吉郎殿が新九郎様の側に侍ることが増えた事で、弟の小一郎殿を尾張から呼び寄せていた。小一郎殿は商家にいた経験から算術に優れた得難い人物であった。


 この工事は荒川の水量が増え、江戸城下にも水が回る恐れがあるとの事で堤を築いているのだ。吉原を遊水池として待乳山から浅草寺の高台を繋ぐ、幅広の堤防である。


 江戸城下の発展も著しい。房総半島が北条氏の勢力下となり、水運の安全が確保された事で商人達が集まり、毎日のように市が開かれている。


 房総の戦での新九郎様の活躍を伝え聞いた牢人も集まり、原様の口利きで千葉家の重臣の子弟も、こぞって新九郎様の馬廻衆に加わる事になったのだ。


 新九郎様は新たに加わった者を再編成して城下に居住する区画を整備している。城下町はどこもかしこも建築の喧噪に包まれているのだ。


「文吾殿!こちらに居られましたか。新九郎様が小田原から戻り、堤工事が終わり次第出陣するとのことじゃ。次も手柄を立て放題ですぞ!」


 次から次へと藤吉郎殿に仕えてから休む暇も無いのう。





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