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平宰相〜北条嫡男物語〜  作者: 小山田小太郎
西堂丸の巻(1543年~)
26/117

氏康の怒り

 西堂丸の提案通り、今後は安房里見家に圧力を掛けていくことになった。


「皆の者、議題は以上じゃ。他にも思うところがあれば今の内に申しておくが良い。」


「父上。今川と武田のことで思うところがあります。」


「何じゃ。申してみよ。」父上は苦虫を嚙み潰したような顔をして促した。父上には今回の停戦が不本意だったのであろう。河東地方は祖父の氏綱公が今川家から獲得した土地であり、それを父上の代になって失ったことが悔しくてたまらないのだ。


「武田家は我ら北条家ではなく、今川家を優先した。これは両家が北条家を危険だと感じているからだと思うのじゃ。此度の北条包囲網は太原雪斎の発案であるとのことじゃ。北条家を滅亡させる好機でもあったが、雪斎は手を引いた。その意味を考えたのじゃ。」


「某は河東地方の奪還が目的であったと思います。」今川方面の最前線を預かる白備の笠原信為が発言する。


「それもあったと思うが、同時に北条家を潰す気も無かったと思うのじゃ。今川も武田も主戦場は西側じゃ。むしろ退いたことで、北条家に無理矢理に恩を売ることが目的だったのではなかろうか。」


「西堂丸、考え過ぎじゃ。今川も武田も隙あらば狙ってくる。そういうものじゃ。」父上に(たしな)められた。


「父上、確かに考え過ぎかもしれませぬが、今なら両家と固く手を握る好機であると思うのじゃ。」


「あれほど良いようにされて黙っていろと言うのか?」父上が怒りに顔を朱に染めるが、幻庵が仲裁に入る。


「御本城様、若様の考えを最後まで聞いてみましょう。若様、先ほど国盗りにも段取りがあると申しましたな。今川と武田とはどうしたいと考えているのじゃ?」


「儂は今川家、武田家、北条家の三国同盟を結ぶことを考えておるのじゃ。北条家は安房里見家を標的と定めた。武田家は信濃に攻め込み、今川家は東海の安定を最優先に考えておる。これまでの経緯はあるが、手を組む利は大きいと思うのじゃ。」


 西堂丸の話が終わると、父上は表情を消して静かに告げた。


「西堂丸の考えは解った。どれ程の利があるかも考えてみよう。しかし、今はまだその時期ではない。今日はここまでじゃ。皆の者、下がってよいぞ。」


 父上は閉会を告げ、部屋を後にしたのだった。重臣達もそれぞれ退出していく。西堂丸も退出しようとすると、幻庵が「若様、話があるのでついて参れ。」と声を掛けてきた。


「若様、其方は聡いな。周囲が良く見えておるし、打つ手も確かじゃ。じゃがのう、人は感情でも動くものなのじゃ。利だけでは納得できないこともあるのじゃよ。」


 幻庵は優しい目をして言葉を続ける。


「我が父、早雲公の時代は今川家の被官であった。氏綱公の時代に得宗家を継ぎ、北条を名乗った。自分の足で立つことになったのじゃ。しかし今でも今川家の者は北条家を被官くらいに思うておる者もいる。」


「大叔父様、爺もそのように言っておりました。」


「早雲公が亡くなり、氏綱公が継いだ時にも一度存亡の危機があったのじゃ。」


 氏綱公が継いだ後、早雲公時代は友好的だった勢力まで加わり、扇谷上杉、山内上杉、古河公方、小弓公方、真里谷武田、里見、武田信虎の北条包囲網が形成されたそうだ。氏綱公は辛酸を舐めながらも包囲網を崩して滅亡を回避したのだ。


「御本城様は氏綱公が苦労して、今の北条家を作り出した様を見て育ったのじゃ。家中の者も同じなのじゃ。其方が軽く口にした【これまでの経緯】には先達の血の滲むような努力があったのだ。ここで今川に屈しては氏綱公に申し訳が立たない。御本城様はそう思っているのであろう。家臣達にも侮られよう。」


 幻庵は一息入れて言葉を続ける。


「御本城様も重臣達も若様の考えを評価しておるし、利があることも充分解っているのじゃ。此度の戦は氏綱公が亡くなり、御本城様の代になってから初めての一族存亡の危機であった。危機を乗り切ったことで家中の者は御本城様の代も安泰じゃと気勢が上がっておる。そこに水を差す訳にはいかないのじゃよ。」


 西堂丸は項垂れるしかなかった。


「若様の案は時期が来れば活かされる筈じゃ。儂も一緒に行くので御本城様に謝りに参ろう。」


 西堂丸は幻庵に連れられて氏康の執務室に向かったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 三国同盟は大失敗することを歴史知識で知っててなお、なんで同盟しようとするのかな。 武田が裏切ることを皆が周知し、婚姻は全部無駄になることを覚悟したうえでの同盟ならわかるけど、それをせずに三国…
[良い点] 読みやすさ [一言] 主人公がまわりが観えていない。 今川に良いように扱われたこの段階で同盟って周りがついてこない。
[気になる点] 主人公がうざいな。武田も今川もつぶせや。
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