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平宰相〜北条嫡男物語〜  作者: 小山田小太郎
西堂丸の巻(1543年~)
22/117

真田の帰属

 1544年秋 早雲寺


 武田家との不可侵同盟が締結された。いつまで効果があるかは分からないが、当面の敵が一つ減るのは双方にとって利になるだろう。


 牛種痘を仔牛へ移植する牛痘苗が上手くいっている。早雲寺の子供等と一門の子供等は予防接種を終えることができた。


 シャボンでの手洗いも習慣になっている。お絹殿の厳しい指導の賜物だ。手洗いをせずにおにぎりに手を出そうものなら、お絹殿に腕を捻り上げられ、足払いから投げ飛ばされるのだ。


 早雲寺で使うシャボンは宇野籐七郎が納品してくる。改良を重ねて香りの良いものが増えてきた。植物性の油のものだけでなく、牛の乳から油分を取り出す方法を考案してくれた。牛痘苗の維持も藤七郎がやってくれている。更に農家にもシャボンの作り方を拡げるよう指示してある。下肥を扱うことになるので、公衆衛生は大事なのだ。


 盛昌が刈り入れの報告にやってきた。


「若様!大変な盛況ぶりでした。来年から更に忙しくなりますぞ。」


 試験用の田で取れ高が三割程も増えた。父上や評定衆も見学に来て成果に驚き、父上は早速領内に拡げるように指示を出されたそうだ。


 父上は脱穀も体験したようで、クランク付きに改良された足踏式脱穀機を高速回転させて大喜びしていたらしい。


「御本城様はすぐにでも領内に広げたいとおっしゃいましたが、指導員の確保、 道具の量産と改良、下肥の生産とまだまだ課題が山積みです。今年は試験用の田を増やすことになりました。」


「爺も楽しそうじゃな。儂も手伝えたら良いのだが、爺に任せきりじゃ。済まぬな。」


「若様が気になさる事はありません。遣り甲斐を感じております。早く領内全てに拡げたいものです。」


 工芸の方でも大発見があった。早雲寺の本尊を収めた逗子(ずし)に硝子玉を見つけたのだ。最初は瑪瑙だと思っていたのだが、以天宗清和尚によると鎌倉時代に硝子の製造が伝わり、仏具師の間では細々と硝子の製造が行われているとのことだった。


 早速、仏具師の大山吉久を呼んで硝子の製法を聞きだし、鋳物師の山田二郎左衛門と共に硝子研究を行わせている。表向きは硝子製品の開発だが、板硝子を研磨して【遠眼鏡】を作る為の極秘任務なのだ。監督を金石斎に任せている。


 真田の使いの者から面会の申し出があったとの連絡がきた。盛昌、忠貞と共に書院で待っていると綱房が一人の青年を案内してきた。年の頃は20代、面長の顔の精悍な若者だ。


「儂が北条新九郎じゃ。(おもて)を上げよ。」


 若者は驚いた表情をしてから、慌てて居住まいを正し挨拶する。


「お初に御意を得ます。真田幸綱の弟で真田俊綱と申します。この度、真田は武田家に仕えることとなり申した。お誘いを頂いておりました北条新九郎様に御断りのご挨拶に伺った次第です。」


「そうか、やはり真田は父祖の地を目指すのか。残念ではあるが、仕方あるまいな。武田とは同盟関係じゃ。この先、共に戦うこともあろうかと思う。其方等の健闘を小田原の地から祈っているぞ。」


「お言葉ありがとう存じます。兄、幸綱に必ずお伝えいたします。」


「長旅ご苦労であった。湯坂の湯にゆるりと浸かってから帰るとよい。ところで手紙の新九郎がこのような童子で驚いたのではないか?」


「若いとは思っておりましたが、これ程とは些か驚きました。新九郎様がおられる北条家の未来は明るいと存じます。今からでも兄を説得したいと思いましたが、今頃、兄は武田晴信公に目通りしている筈です。残念です。」


 すると横から爺が声を掛けてきた。


「真田殿、其方だけでも当家に仕えぬか?其方の面構え、立ち振る舞い、中々のものじゃ。この大道寺盛昌が請け負うが、如何かな?」


「ありがたきお言葉です。私も新九郎様にお会いし、小田原の様子を観て、小田原を離れがたく思っていたところです。一度戻り、兄と相談してからお返事いたしますが、よろしゅうございますか?」


「構わぬ。色好い返事を待っているぞ。」


 後日、俊綱は郎党を引き連れ、小田原に戻ってきた。当面は爺の手伝いをしてもらうことになった。

登場人物

真田俊綱(?-1572?)史実では常田家を継ぎ常田隆永と名乗る。兄弟は綱吉・幸綱・矢沢頼綱・鎌原幸定。


~おことわり~

妹の名前を【珠】から【竹】に変更しております。あらすじの変更によるものです。ご了承くださいますようお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 俊綱が引き連れた郎党の中に矢沢頼綱が居たらラッキーですね。
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