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平宰相〜北条嫡男物語〜  作者: 小山田小太郎
西堂丸の巻(1543年~)
17/117

硝石と肥料

 一通り紹介が終わったところで、父上が話し始めた。


「普通ならば、ここで話は終わりなのだが、皆には重要な話をして置かねばならぬ。先日、西堂丸の元に八幡大菩薩様が現れて西堂丸に知恵を授けたそうじゃ。その知恵が有用か否かを西堂丸の教育の一環という体で試してもらいたい。忠貞、話をせよ。」


 皆の視線が忠貞に集まった。事前に話を通しているようで誰も驚かず、むしろ興味津々といった様子で聞いている。


「触りは皆様にもお伝えしておりますが、こちらは西堂丸様が八幡大菩薩様より授かった知恵を書き出したものです。」


 忠貞は数十枚の紙の束を取り出し、説明を始めた。相変わらず仕事が早い。


「まず火薬に必要な硝石の製法からお話いたします。現在は根来流の製法で、古民家の【鼠土】を採取し、硝石を抽出しております。金石斎様、間違いありませんね?」


 古土法だ。根来衆の知識も侮れないものがある。忠貞の言葉に金石斎も頷いて同意を示した。


「この【鼠土】を計画的に作り出すというものです。干し草と黒土と腐り水を混ぜ合わせ、長さ五丈(15m)、幅一丈(3m)、高さ四尺(1.2m)の土丘を作ります。これを硝石丘と呼びます。硝石丘には腐敗尿と糞堆の汚汁を散布し、鍬入れを二月毎(ふたつきごと)に行います。おおよそ5年で表面の土が【鼠土】になる仕組みです。古民家の床下と同じ状態にするために雨に濡らさず、風通しを良くすることが肝要です。金石斎様、如何でしょうか?」


「理屈を聞くと納得できるな。【鼠土】が得られる場所は大抵、糞尿の匂いがしておる。どれ程の量の【鼠土】が採れるか解らぬが、試してみる価値はあると思う。うちの景長なら喜んでやるだろう。」


 金石斎には大藤景長という長子がいるのだが、火薬にしか興味の無い変わり者であった。家督を弟の大藤秀信に押し付けて火薬の研究に没頭しているそうだ。専門家のお墨付きを貰えた上、適任者が見つかり一安心である。


「続きまして農政に関する話です。」忠貞が続ける。


下肥(しもごえ)を撒く農法は今でも行われております。ただ撒くのではなく土と混ぜ合わせることによって、土の持つ力を強くするというのが此度の試みです。」


 下肥(しもごえ)は1年以上発酵させると匂いがしなくなる。質を上げるために貝殻や卵殻なども砕いて入れる。最初は田植え前に田起こしをし、肥料を混ぜるのだ。田起こし用の道具も開発しなければならない。三刃鍬いわゆる備中鍬や踏鋤(スコップ)代掻き(とんぼ)などだ。田植え後も肥料は水に薄めて適当な時期に撒くことになる。


 更に忠貞から正条植えの説明がなされた。苗を等間隔に植えることにより、除草や害虫駆除が容易になる。併せて片手で持てる鉄製の三本の鉤爪を除草爪(シザーハンド)と名付けて開発する。


下肥(しもごえ)の使用は今年は間に合いませんが、来年に向けて準備を始めます。また、堆肥の一種として硝石作りの隠れ蓑にもなります。ここまでで何か疑念はございますか?」


 盛昌が興味深そうに頷きながら答えた。


「すぐに取り掛かることだけでも大変じゃな。把握しきれぬ。収穫期の試みの話はまた後日しようではないか。他の話題もあるのであろう?」


 忠貞は頷き農政の話を切り上げた。


「次に水や酒を運搬できる木材の器です。大木をくり貫くのではなく、板を合わせて器の型にします。これを樽と申します。」


 綱房が疑問を口にする。


「隙間から水漏れするのではありませんか?漆で隙間を埋めたとしても難しいと思いますが?」


 手斧と槍鉋での木材の仕上げでは、水を入れる木樽作りは難しいのだ。台鉋は九州では普及し始めているが、押して削る仕様である。開発するのは引いて削る台鉋だ。神奈河新四郎という大工に命じて試作品の鉋は完成していた。


「こちらでございます。」


 忠貞が試作品の台鉋と台鉋で削った板を皆に披露した。


「表面に凹凸が無く、隙間無く板を合わせる事ができます。馬の背に乗せる事を踏まえ四斗の樽を試作中です。」


 木の表面の滑らかさを確かめていた父上が疑問を投げ掛ける。


「木樽が取り扱いやすいのは理解できたが、壺や甕でも用を足すではないか?わざわざ木樽を開発する意味があるのか?」


「木樽は甕では作れない大きなものを作ることもできます。西堂丸様は江川酒のような酒の大量生産をお考えです。」


 実際作ってみて皆の反応を聞いてみようという事で、忠貞は話を締めくくった。


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